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『冒険少女隊ドキドキファンタ』第1話・後書き
 これこれ、良い子は後書きから読んだらダメだよ。

 お読みになったとおり、第1話では本作の主役であるファンタ・アップルは登場していません。第2話の怒涛の展開の後、ラストになってようやく変身シーンが登場します。子供向けの変身魔法少女と呼ばれるジャンルの中では非常に異例のことなのですが、これは本作が最初から玩具の売り上げよりもパッケージDVDの売り上げを狙った作品として企画されていたことにより、単なる子供向け以上の内容を目指していたことの現われだと言います。
 事実、放映が始まった直後からネット上で大きな話題になり、幅広い層の視聴者を獲得しました。子役から抜擢された新人のレギュラー声優たちも話題となり、広く人気を獲得したようです。
 残念なのは主人公の林檎役の新人声優がシリーズ中盤で降番になり、汚点のようなものを残してしまったことですが、その真相は明らかにされていません。

 こんな感じで始まった『冒険少女隊ドキドキファンタ』ですが、第2話でファンタ・アップルが登場した後、1クール掛けてレギュラーキャラが揃ってきます。今後の展開をお楽しみください。

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 言うまでも無くエイプリルフールの企画なので、こんなテレビアニメは実在しません。ま、当ログを読んでる方ならわかるように、『妹に萌えないで』で出てきてた作中アニメの話です。
 なので、第2話以降の掲載の予定は(今のところ)まったくありません。その割にはけっこう伏線とか張って真面目に第1話として書いてるんだけど……
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

『冒険少女隊ドキドキファンタ』第1話(後編)
 夕食が終わって部屋に戻った林檎は、すぐさま『ドキドキワールド』を再開した。待ち合わせ場所の広場にはすでにサクラとプラムがやってきていた。2人は何かを会話してる様子だったが、林檎が近付いてみると、話題はサクラが胸に付けてる羽根飾りのことだった。
「これはファンタ・エルフの称号を与えられたキャラに贈られる特別なアイテムなの。どこにも売ってないし、売り払ったりも出来ないわ。譲与だって出来ないからRMTにも使えないし、これが付いてたって別に何か特典があるわけでもないから気にするようなものじゃないわ」
「ファンタ・エルフって何ですか?」
 プラムは初めて聞く言葉のように頭にクレッシェンドマークを浮かべながら訊ねる。それは林檎にも初耳だった。
「このゲームの隠し機能みたいなものかな。私もよく知らないけど、ランダム発生的にあるイベントをクリアした人に授けられる称号らしい。この称号があるからってゲームが有利になるとか、そういうことは無いみたいだけど……」
 どうやら本人もあまり理解はしていないらしい。
「私の場合は、空中都市国家バルバの虹の橋のドラゴンを死の谷の魔王の呪いから解いてやったときにお礼にもらったんだ」
 空中都市国家バルバというのはアドニス大陸からずっと東の大海の果てにあるランバダ島の上空に浮かんでいる町である。町に上がるための空間ゲートの入口に強力なモンスターがいるため、レベルの低い林檎はまだ行ったことが無い。
 称号とかいうのには憧れるけど、実利が無いんじゃ狙って獲得するほどのものではない。それより、今の自分は早くグレードアップしてサクラに追い付かなくちゃ。

 間もなくパーティーは揃ったので、一行はポートモノリスの近くにあるフロンティアの一つ、ハイリゲンシュタットの森に向かった。
 森の中はけっこう広く、視界も制限されて見通しが良くない。一行は三チームに別れて森の中を探ることになった。平原なら騎士を先行させるという手もあるが、森の中では騎士の行動力も制限される。剣士三人が各チームのリーダーとなり、サクラのチームには銃士と弓兵、残り二チームには騎士と魔道士が一人ずつ付くことになった。
「俺は斉藤一だ」
 林檎のチームの剣士が名乗った。もちろん本名ではない。恐らく「悪即斬」の人をあやかったキャラ名だろう。
「拙者はトリスタンと申すでござる」
 妙に時代劇掛かった口調で騎士が名乗った。その割にはキャラ名はアーサー王伝説の円卓の騎士が由来らしい。
「私は《ぷちりんご》、よろしくね」
 二人に比べると全然RPGらしくないキャラ名を林檎は名乗った。もっとも、画面上のキャラにマウスカーソルを合わせたらキャラ名は表示されるから実のところ名乗りあう必要なんか無いのであるが、まぁ、挨拶みたいなものである。
「俺たちは森の東側を進んでいく。ターゲットを発見したら狼煙を上げて合図する手はずだから、他のチームが集まってくるまで余計な手出しはするな。ただ、向こうから不意に襲ってくる可能性もあるから注意してくれ」
 斉藤一は二人を見回した後、林檎の方に一歩近付いた。
「とくに戦闘になったらお前さんの回復魔法が頼りだから、その前にやられたりはするなよ」
 何か私だけ念押しされてるけど、そんなに頼りなく見えるのかな、と林檎は少し落ち込んだ。
「じゃ、行くぞ」
 斉藤にしたがってトリスタンと林檎は鬱蒼とした森の奥へと進みだした。

 ターゲットの「未知の幻獣」はなかなか現れなかった。むしろ樹上からヒルのように際限なく落ちてくる吸血スライムを初めとする雑魚モンスターの始末に手間が掛かった。こればかりは林檎も自分は回復担当だからと避けるわけにも行かないので、慣れない短剣を振り回して退治するしかない。
 林檎は今に始まったことじゃない自分の不幸体質を思い出し、これはハズレルートだったんじゃないかと思った。ターゲットの「未知の幻獣」は別の二チームのどちらかのルートに現れて、このルートは延々と経験値もあまり稼げない雑魚モンスターの相手ばかりさせられるんじゃないかと。これじゃ他のチームから狼煙の合図があってもすぐには向かえそうにない。
 一撃か二撃で倒せる雑魚モンスターとはいえ、これだけ集中的にやってくると何回かはダメージを食らってライフポイントが削られていく。今のところは蚊に刺された程度で痛くもないけど、この調子でもっと強力なモンスターにやってこられたら大変だ。
「魔道士さんよ、大丈夫か?」
 大きな剣の一振りでモンスターを一度に二、三匹倒しながら斉藤が言った。林檎と違ってこの程度の相手にダメージは皆無らしい。
「ええ、何とか」
 林檎はそう答えながら、もう一人の仲間、トリスタンの方を見た。騎士は馬を下りて、槍で吸血スライムと戦っていた。どうやら馬が吸血スライムにやられて動けなくなってしまったらしい。おまけに槍では戦いにくい感じだ。
「騎士さんよ、付いて来れるか?」
「面目ない。馬はここに置いていくしかないでござるな」
 この手のゲームのお約束として、放置された馬にモンスターの危害が及ぶことは無い。戻ってくる頃には馬も回復しているだろう。

 三人はなおも森の奥へと進んだ。「未知の幻獣」は見付からないし、他のチームからの狼煙の合図も無い。いつの間にか雑魚モンスターの出現が減ってきて、やがてそこだけ森が途切れて大きな岩がある場所にたどり着いた。
「ここらで休憩でもするか」
 斉藤はそう言いながら岩に腰を掛けようとした。すると、その岩はいきなり振動を始め、そして地中からどんどん盛り上がってきた。三人は慌ててその場を離れたが、岩だと思ったのは実は巨大なモンスターだったのだ。
「こいつがターゲットでござるかな?」
 しかし、そのモンスターの姿に林檎は闘志ではなく愛らしさを感じた。なぜなら、モンスターはデフォルメされたラブリーなハムスターの姿をしていたからだ。
「かわいい……」
 間合いをとった場所から斉藤は狼煙を上げた。手はずでは、このままモンスターと退治したまま他のチームの合流を待つことになる。
「俺たちだけでも倒せそうな気がするんだがなぁ」
 どう見ても人畜無害のような外見のモンスターは弱そうに見えた。
「見掛け通りとは限らないでござる」
「なんか、倒すのかわいそう」

 やがてサクラのチームがやってきて、少し遅れて最後のチームもやって来た。
「これが《未知の幻獣》なの?」
 サクラは呆れたように言った。とても依頼書にあったような人を襲うモンスターには見えないからだろう。
「他にそれらしいモンスターなんかいなかったからな」
 斉藤がそう言ったが、それは他のチームの連中も同じようだった。
「やっぱり倒すのはやめようよ」
 林檎はそう言ってみんなに同意を求めた。
「でも、この大きさじゃ生け捕りにして連れて行くのは無理だぞ」
 依頼を達成するにはモンスターを倒すか生け捕りにしなければならない。もちろん、依頼を放棄するって選択もあるのだが、そんなくたびれもうけのようなもの、パーティーのメンバーのほとんどは望まないだろう。
「一緒に付いて来てもらえば良いんだよ」
 林檎はそういうと、モンスターを説得しようと近付いた。しかし、そんな林檎に突如としてモンスターの腕が襲い掛かった。
「危ない!」
 林檎がモンスターに殴り飛ばされそうになった寸前、一瞬の差でサクラが剣でモンスターの腕を受け止めた。しかし、モンスターの力は強烈で、サクラの剣は折れ、林檎ともども弾き飛ばされた。
「交渉決裂ってわけね」
 サクラは林檎に言い聞かせるようにそう言った。そして折れたのとは別の剣を取り出した。
「見掛けに騙されないで! こいつはかなり凶暴なモンスターよ」
 サクラの言葉に他のメンバーたちも身構えた。
「だから、回復魔法担当は下がっていて」
 林檎を下がらせ、サクラはモンスターに向かって身構える。よく見ると、腕を負傷している。林檎を庇ったときに傷付いたようだ。
「待って!」
 林檎はサクラを呼び止めると、呪文を詠唱し始めた。
「治癒の風(キュア・ウインド)」
 林檎がマジックワンドを振り下ろすと一陣の風がサクラを包み込んだ。するとサクラの怪我は治り、ライフポイントも回復した。
「ありがとう」
「お互い様だよ」
 サクラはモンスターに向かっていった。戦いになった以上、モンスターを倒すのは他のメンバーたちの仕事である。林檎とプラムの仕事は後方で戦況を確認しながらダメージを負った仲間を回復させることだ。
 戦いは予想以上に梃子摺った。パーティーメンバーの攻撃は熾烈だったが、それにも増してモンスターがタフ過ぎたのだ。いくら攻撃を受けても一行にダメージを負ってるようには見えない。反対にこちらのメンバーは何度も大きなダメージを食らってる。その都度、回復魔法を使ってるから今のところ脱落者はいない。しかし、回復魔法を何度も続けるとマジックポイントが消耗してしまう。林檎のマジックポイントは半分を切っていたし、プラムは残り少しというところだった。
「パーティーを組み直して出直した方が良いかな」
 サクラが悔しそうに呟いた。
「今日中に倒さなきゃ、他のパーティーに横取りされる可能性もあるんだが」
 冒険の依頼は市役所に行ってもらってくるのが普通である。毎朝の開庁時に並んでいたキャラの順番で好きな依頼を選ぶことが出来るのだが、その日のうちにクリアできなかった依頼は再び市役所で募集されることになってしまう。こういう美味しい依頼はなかなか手にすることが出来ないから、何としてでも今日中に倒したいのである。
「魔道士さんよ、攻撃魔法は使えないのか?」
 斉藤が林檎に訊ねて来た。
「炎の球(ファイヤーボール)とか、雷撃(ライトニング)なら少しは。でも、あんな大きなモンスターには効かないよ」
 おまけに攻撃魔法はマジックポイントを消耗する。一回でも攻撃に使ってしまえば後は回復魔法も使えなくなるだろう。
「ダメ元でも良いさ。やつだって不死身じゃないはずさ。やつのダメージ回復を超えるだけの攻撃を集中してやれば手掛かりはつかめるはずさ。ダメなら出直せば良いだけだろ、なあ、隊長さんよ」
 斉藤はそう言ってサクラに同意を求めた。
「そうだな」
 サクラは仕方が無いというような表情で答えた。
「よし、やってくれ。俺たちは攻撃魔法でダメージを負ったところを集中攻撃する」
 林檎は呪文の詠唱を始める。回復魔法に比べれば魔術式の組み立てが複雑なため、呪文も長くなる。
「雷撃(ライトニング)!」
 林檎が力強くマジックワンドを振り下ろすと、天空から強烈な雷がモンスター目掛けて落ちてきた。
 結末は呆気なかった。モンスターは雷の一撃だけでピクリとも動かなくなったのだ。身構えていたメンバーたちも拍子抜けした様子だった。
「凄いじゃないか」
 斉藤は感心したように言った。しかし、当の林檎は戸惑っていた。
「そんな……こんなに威力のある魔法じゃないよ」
 攻撃力ならファイヤーボールの方が多少は大きい。それをライトニングにしたのは林檎はしばしばファイヤーボールを外してしまうからだ。マジックポイントも少ないから無駄は出来ないし、何より仲間に当ててしまっては大変である。
「そういうことでござるか」
 倒れたモンスターを覗き込んでたトリスタンが言った。
「どうしたんだ?」
 サクラが駆け寄っていくので林檎も付いていった。
「ここを見るでござる」
 トリスタンが指したのは雷が直撃したモンスターの頭部だった。そこは焼け焦げた岩石状の皮膚が剥がれ、中身が剥き出しになっていた。それはどう見ても金属製の物体だった。
「ロボット?」
 プラムが不思議そうに呟いた。
「恐らく、雷の直撃を受けて内部の回路がショートして機能停止したのでござろう」
「ロボットか……どうりで俺たちの攻撃が効かなかったわけだ」
 斉藤が感心したように言った。この『ドキドキワールド』では一部に科学の発達した都市が出てくるが、大半の舞台はオーソドックスな中世風の都市である。ポートモノリスもそんな中世風の都市のひとつに過ぎなかったから、こんなところでロボットなんかが出てくるなんて誰も思わない。みんな相手が生物のモンスターだと思い込んで攻撃していたのだ。
「なるほど、それで《未知の幻獣》ってわけか」
 納得したようにサクラは言った。

 お約束のモンスターが持っていたアイテムの戦利品を配分した後、一行は帰路に経とうとしていた。
「市役所へは私が報告に行くから、明日にはみんなに報酬が支払われると思う」
 サクラは一同にそう言った後、切り出した。
「帰りはどのルートにする? 一番楽なルートを行きたいのだが」
 三つのチームの通ってきたルートについて、どこが楽だったかという話になったのだが……
「拙者は愛馬を途中で置いて来たでござるよ」
 もと来た道を戻るしか無いというようにトリスタンが言った。
「ええっ? あんな道、もう嫌だよ!」
 林檎は吸血スライムを思い出してうんざりして思わず口に出していた。
「そうだな。功労者様のお言葉には従うしかあるまい」
 同意するように斉藤が言った。
「そんな……拙者一人であの道を帰れというでござるか?」
 他のメンバーたちはどっと笑った。

 その時、林檎は倒れたモンスターの脇で何かが動いてるのに気付いた。
「ちょっと待ってて!」
 林檎はモンスターのところに駆け寄った。よく見るとモンスターの胴体の部分から皮膚がめくりあがり、ロボットのボディーの扉のようなものが開くところだった。
「くそ! 忌々しい人間どもめ!」
 乱暴な声がしたかと思うと、中から一匹の小さなモンスターが現れた。
「俺様が百年掛けて作り上げたこの機械人形をガラクタにしてしまいやがって!」
 声の主はそばに林檎がいることには気付いてない様子だった。
「この世界は本来、俺たちの一族が神様からもらう予定だったんだ。それを新参者の人間が横取りしやがって、今じゃどこに行っても人間たちの我が物顔だ。俺たちの一族も多くは人間に殺されてしまったが、この俺様はそうは行かないぞ。いつか絶対に人間どもを根絶やしにしてやる!」
 モンスターは苦心して作ったロボットが倒されたのがよっぽど悔しかったのか、人間に対してずいぶんと怒ってる様子だった。
「あなた、人間を滅ぼしたいの?」
 林檎はモンスターに訊いた。
「当たり前だ。人間は本来この世界にいてはいけないものだからな」
 モンスターはそう答えると、ようやく相手がその人間であることに気付いて慌てた。
「人間め、わが一族の呪いを掛けてやる!」
 モンスターは林檎の知らない古の言葉で呪文を唱え始めた。しかし、その時にはすでに林檎は自分の呪文の詠唱を終えていた。
「炎の球(ファイヤーボール)!」
 残りのマジックポイントは少なかったが、これくらいのモンスター相手なら大丈夫。それに至近距離なら外すことも無い。
 林檎がマジックワンドを振り下ろすや否や、モンスターは炎に包まれて黒焦げになってしまった。
「さてと……」
 林檎はその場を去って仲間のところに戻ろうとしたが、その前にいきなり光に包まれた女性キャラが現れた。
「私はこの世界の秩序と安寧を司るエルフプリンセスです。この世界の破壊を企み、人類の抹殺を願おうとする邪悪な始原魔族の一匹を倒してくださってありがとう。ぷちりんごさん、あなたにはファンタ・エルフの称号が与えられます。どうか、この羽根飾りを受け取ってください」
 エルフプリンセスはそう言って林檎に羽根飾りを渡すと、どこかに消えてしまった。
「ファンタ・エルフ?」
 そういえばサクラもその称号を持ってるという話だった。渡された羽根飾りは確かにサクラの付けてるものと同じ種類のデザインで、少し色が違っていた。あの小さなモンスター、そんなに大物だったのかな、と林檎は半信半疑だった。

「何してる? もう出発だぞ!」
 サクラの声が聞こえたので林檎は慌てて戻った。トリスタンじゃないけど、置いてかれたら一人で町まで戻れる自信は無い。
 トリスタンの必死の懇願で、帰路は林檎たちが来た道を戻ることになった。しかし、不思議と帰路には吸血スライムたちが出て来なかった。林檎の羽根飾りにはサクラは気付いたようだったけど何も言わなかった。
「また一緒にパーティーが組めると良いな、新米のファンタ・エルフ」
 最初の集合場所で解散するとき、サクラは林檎にだけ聴こえるようにそう言った。
「うん」
 林檎は頷いてサクラと別れた。

 時計は夜中の12時を過ぎていた。
「あ、もうこんな時間……」
 林檎は慌てて『ドキドキワールド』からログアウトした。明日は宿題の提出が無かったことを確認すると、メールのチェックだけしてPCの電源を落とした。
「早く寝なくちゃ……」
 林檎はパジャマに着替えるとベッドに潜り込んだ。
「ファンタ・エルフって何なんだろう?」
 先輩であるサクラが知らないってことは、どこにも公式の情報は無いのだろう。隠し機能なんてものは珍しくもないけど、たいていは分かりやすい実利があって、公式情報は無くてもユーザーでは常識的に情報が広まってるものである。でも、ファンタ・エルフはそんなものではないみたいだ。
 考えながら林檎は深い眠りについていった。
 その時、すでに『ドキドキワールド』の世界では異変が起こっていたのだが、林檎たちユーザーはまだ誰もそのことを知らなかった。

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『冒険少女隊ドキドキファンタ』第1話(前編)
《第1話「ファンタ・エルフ」》

「ただいまー」
 林檎は奥のリビングにいるはずのお母さんに声を掛けると、そのまま2階の自分の部屋に駆け上がった。
「さぁ、始めるぞぉ!」
 カバンをベッドの上に放り投げると着替えもそこそこに、林檎は小学校の頃から使ってる学習机の足元に鎮座した無骨なタワーPCの電源を入れた。スタンバイで落としてるとはいえ、それでもOSの起動時間がもどかしい。
 自分のいない間に家族に触られることも想定してあるから、デフォルトでユーザー選択画面が出てくる。些細な手間ではあるけど、パスワードをいちいち打ち込むのも面倒だ。デスクトップ画面が現れ、ハードディスクの頻繁なアクセスが終わったのを確かめると、林檎はデスクトップ上のアイコンの1つをクリックした。
 やや時間を置いて鮮やかなグラフィックのウインドウが現れる。「冒険ファンタジー世界・ドキドキワールドにようこそ!」とそこには書かれてあった。それは林檎が夢中になってるネットゲームのクライアントソフトの起動画面だった。
「何よ。またシステムのパッチが出てるよ」
 その起動画面の上にいきなり開いたダイアログ画面を見て、林檎はうんざりしたようにつぶやいた。何のことはないクライアントソフトのアップデート通知なのであるが、このゲームはそのアップデートが頻繁なので週に1回はゲームの開始前にアップデートをしてクライアントソフトを起動しなおす必要があるのだ。
 しぶしぶアップデートボタンをクリックすると、専用のダウンロードソフトが起動して自動的に処理を始める。林檎の家には光ファイバーのネット回線が繋がってるからダウンロードに多くの時間が掛かるわけでもないし、OSのアップデートみたいにアップデート処理が長い上に終わったと思ったらPCを再起動しろと言われるわけでもないけど、余計なことに時間を費やされるのは嫌だ。
 アップデートの終わったクライアントソフトは自動的に起動しなおし、再びその起動画面を表示した。これでようやくゲームが始められると林檎は気合を入れようとしたが、それは階段を上って来る足音で挫かれた。
「林檎、ゲームばっかりやってないで、ちゃんと勉強しなさいよ!」
 ドアの向こうでお母さんの声がした。毎日毎日聞き飽きたセリフだけど、ここで口応えなんかしたらネットワークを遮断されたり、PCを取り上げられたりするかもしれない。林檎はいつものように適当に生返事を返した。
「はぁ~い。わかってるよ~」
 それでお母さんが本当に信用してるのかどうかはわからないけど、定例的ないつものやりとりである。
「それから、お父さんは今晩早く帰って来るから、晩御飯は一緒で良いでしょ? 少し時間は遅くなるわよ」
 お母さんはそう言うと階段を下りて行った。

「よぉし、始めるぞ~!」
 母親の忠告も何のその、林檎は気合を入れなおすと再びネットゲームに向かい始めた。スタートボタンをクリックするとアカウントIDとパスワードの入力が要求される。それが受理されれば自分のホーム画面が現れ、キャラクターの基本設定や前回までの結果が反映されたパラメータが表示される。
「グレードアップはまだまだだけど、今日中にレベルアップは出来そうね」
 林檎はジュニアグレードのサーバーの1つを選択するとこのオンラインゲームの世界に入っていった。

 この『冒険ファンタジー ドキドキワールド』は国内の大手ゲーム会社の手による、比較的古参のMMORPGである。最近のオンラインゲームがアイテム課金に移りつつある中、あくまで月額基本料金を貫いているため、タダで遊びたいとか、金に力を言わせてキャラを強化したいという一部のユーザーには評判が悪いけど、堅実に経験だけでレベルアップ出来るオーソドックスなシステムには定評がある。
 『ドキドキワールド』のシステム的な特徴のひとつとして、グレード毎のサーバー空間をマルチレイヤー化してあることにある。ユーザーはキャラのグレードに応じたサーバーに接続して、そこでゲームをプレイすることになるが、全てのサーバーは1つの仮想マップを共有し、マップ上のレイヤーという概念を用いることで全てのユーザーが同一のマップ上でゲームを楽しむことができるのだ。
 マップ上の全てのエリアは3つのカテゴリーのいずれかに属する。「タウン」はスタート場所でもあり、情報収集や各種のアイテム売買、補給の場所である。それに隣接する「フィールド」は一般的な活動の場であり、モンスター退治の修行や依頼解決の仕事などは主にここが舞台となる。最後の「フロンティア」は未開の土地であり、何が起こるかわからないとされている場所。
 プレイヤーキャラは各自のグレードを意識せずに自由に会話でき、パーティーを組むことが出来るが、「タウン」や「フィールド」ではレイヤーの管理機構が働くため、その行動はグレードによって制限される。すなわち対戦するモンスターは自動的に各自のグレードに合わせた難易度のモンスターが割り振られ、キャラとの対決も同一グレードのキャラ同士でないと行えない。この制限によって例え初心者であっても一撃でやられてしまうような強力なモンスターと出くわすことはないし、高位グレードのキャラでも片手間で倒せるような弱いモンスターとは当たらないようになっている。例え自分が別のグレードのキャラに助太刀しようとしても、その相手モンスターにとっては自分の攻撃は無効であり、またこちらを攻撃してくることもない。
 一方、「フロンティア」ではそんな制限は取り払われるために、どんな強さのモンスターが襲ってくるかもわからない状態となる。これはレベルの低い低位グレードのキャラにとっては非常に危険が伴う状態であるが、一方で違うグレードのキャラとも同一条件でパーティーが組めたりするメリットもあり、強力なモンスターを倒した場合は多くの経験値を積むことも出来る。
 メリットとデメリットは表裏一体であり、当然ながら全てはプレイヤーの自己責任ということになるが、初心者用のビギナーズグレードだけは「フロンティア」には立ち入れないようになっている。
 ちなみにHPが0になった場合は「強制入院」となり、ただちに現在のグレードの初期状態のレベルまで戻され、装着中のアイテムの1つがランダムに失われ、再起の町・ホスピタルポリスからのやり直しとなってしまう。

 林檎のキャラ、《ぷちりんご》はアドニス大陸東方の港湾都市、ポートモノリスにいた。沖合いにある島嶼地方の冒険を終えてこの町にたどり着いたところである。典型的な黒い魔道士装束に身を包んだそのキャラは、身に付けたアイテムも実用一点の堅実なものばかりで見た目に地味以外の何ものでもなかった。
「おねえちゃん、いい回復アイテムがあるんだが……」
 商人らしきキャラが売り込みに来た。
「回復魔法が使えるから、いらない」
 林檎は返事をキーボードで打ち込んだ。回復魔法なんて魔道士にとっては基本である。誰がどう見ても魔道士としか思えない自分に回復アイテムを売りつけようだなんて、何を考えているんだか。見た目、NPCとも思えなかったし……
 林檎はキャラを町の繁華街に向けた。こんな大きな町には自分のような魔道士を見ると仕事を依頼してくる機能の一つや二つは用意されている。あるいは簡単な冒険へのパーティーの誘いも。もっとも、さっきのように物を売りつけようとしてくる商人の方が圧倒的に多いのだが……

「そこの魔道士、パーティーを組まないか?」
 しばらく歩いていたら、そう声を掛けられた。相手は女剣士である。キャラ名はサクラとあった。
「近くのフロンティアに幻獣探しに出掛けるんだが、なんせ剣士や騎士ばかりで攻撃メンバーは足りててもバックアップが不安でな。回復魔法を使える魔道士や聖職者を探していたんだ」
「うん、いいよ」
 サクラの誘いに林檎は応じた。パーティーに参加した場合はたとえ自分が攻撃に参加しなくても回復魔法の行使によって経験値を稼げる。ちなみにレイヤー管理機能が働く「タウン」や「フィールド」でも回復魔法はグレードを超えて全てのキャラに有効なので重宝されるのだ。
「あんた、前に会ったことないか?」
「え?」
 サクラにそういわれて、林檎は首を捻った。目の前の女剣士はシニアグレードのキャラであるが、シニアグレードの剣士とパーティーを組んだことは一度もない。
「そうだ、ロドリス島のイケナタウンでパーティー組んだことがあっただろ。あの時は私もまだジュニアグレードになったばかりだったが」
 そう言われて、林檎は思い当たった。
「ああ、あの時の……。でも、もうシニアグレードって凄いね」
「何言ってるのよ。あれから3ヶ月も経ってるのにまだジュニアグレードのあなたの方が珍しいよ」
「うう……」
 それを言われると悔しかった。ネットに繋ぐ暇がなくてキャラが成長しないなら仕方がないとは思うけど、毎日と言っていいくらいプレイしてる割には、林檎のキャラはレベルアップが異様に遅かった。薄々何かおかしいとは思ってるのだけど、実生活でも目立つ自分の不幸体質の一環だと半ば諦めてもいるのだ。
 実のところを言えば、林檎がこのゲームを始める直前のバージョンアップの際にキャラクタージェネレーター機能の一部にバグがあって、魔道士タイプを選んだ場合にレベルアップに必要な経験値が異様に大きな数値になってしまっていたのだ。このバグはすぐに改修されたのだけどユーザーには通知されず、こっそり変更されたためにバグがあったことは公表されていない。その間に生成された魔道士キャラのパラメータの書き換えもこっそり行われたのだが、どういうわけか林檎のキャラだけは忘れ去られていたのだ。
 ただ、レベルアップの成果としては現れてこないけど、林檎のトータル経験値そのものはかなり大きな数値になっていて、表面上に現れないこの数値を利用した魔法効果などには大きな影響を与えているのだけど、林檎自身はそのことには気付いていない。

 パーティーの他のメンバーとは町外れの広場で落ち合った。騎士が2人、剣士が3人、銃士が1人、弓兵が1人……なるほど、攻撃メンバー主体のパーティーである。そして、回復要員は林檎のほかにもう1人の魔道士がいた。同じジュニアグレードである。
「私、フロンティアの冒険は初めてなんです」
 その魔道士プラムはそわそわするように言った。どうやらビギナーグレードから上がってきたばかりらしい。
「大丈夫だよ。モンスターは他のメンバーが相手になってくれるから、私たちは回復魔法に専念してれば良いだけだから」
 そうは言ったものの、不意に背後から襲われたりしたら自分で戦わなければならないことになる。林檎は回復魔法には自身があったが、襲撃に即応できるような速攻の攻撃魔法には自身がない。いざとなったらシールド魔法で攻撃をかわすか、護身用の短剣で立ち向かうしかなかった。
 前にも述べたが、フロンティアで襲ってくるモンスターにはレベルの制限がない。ジュニアグレードのキャラなんか一撃で病院送りにしてしまう強力なモンスターも珍しくはないのだ。一撃でやられてしまうといくら回復魔法や回復アイテムがあったって役には立たない。非常にシビアだが、このシビアさがフロンティアの醍醐味とも言える。

「私たちが出向くのは、このポートモノリスの南西にあるハイリゲンシュタットの森だ。この森に最近になって未知の幻獣が出没し、付近の住人や旅人たちを襲ってるという。依頼内容はこの幻獣の正体を明らかにし、捕獲もしくは撃退することだ。依頼金は全て成功報酬で1万5000ゼニー。配当は自動振り分けだけど、一人当たり最低1000ゼニーは期待できると思う」
 サクラは一同に冒険の依頼内容を説明した。ゲームの開設当初はともかく、今では大きな町の近郊での冒険で、これだけ多額の報酬を期待できる依頼は滅多にない。主流なのはもっと内陸で最寄のタウンから遠く離れた辺鄙なフロンティアとか、随時拡張されるマップ領域の新大陸での冒険であり、それらは一日中接続してるようなニートの高位グレードのキャラたちだけで独占されるのが現実である。だから、この依頼は美味しかった。
「何か質問はある?」
 剣士の一人が手を挙げた。
「その幻獣とやら、横殴りはありか?」
 横殴りとは他のキャラとの戦闘中で弱ったモンスターを、横から割り込んでの攻撃で倒し、それによって得られる経験値をごそっと横取りしていくことである。
「あなたたちのモラルに任せるわ。もっとも、こんな美味しい仕事に裏があるのは当然だから、1人で何とかなるようなモンスターじゃないのは確かだと思うけど」
 そう、美味しい依頼には困難が付き物である。でも、これだけ人数がいるなら何とかなると林檎は思った。
「他には?」
 サクラは一同を見渡した。
「あのー……」
 林檎は恐る恐る手を挙げた。
「あたしんち、もうすぐ夕食だから、冒険の前に落ちても良いですか?」
「仕方がないわね。2時間後に再集合ってことで、いったん解散しましょうか? 遅刻したら置き去りだけどね」
 サクラは他のメンバーに同意を求めたが、特に反対はなかったので2時間後に同じ広場で再集合ということになった。

 林檎がサーバーからログアウトすると、ちょうどお姉ちゃんの梨紅が会社から帰って来た声を聞いた。
「ただいま。晩御飯、まだ?」
 お姉ちゃんは林檎より6つ年上で、短大を出て去年から会社勤めをしている。昔からお姉さんぶってて何かと林檎のことを馬鹿にしてるんだけど、林檎から見れば食い意地が張ってがさつな女としか思えない。
 そのまま、階段を上ってきたお姉ちゃんは林檎の部屋の隣の自分の部屋に入っていくが、通りすがら林檎に余計なことを言っていくのがいつものことだ。
「林檎、またネトゲーやってるんでしょ。いい加減にしないと、ゲーム脳で頭が変になるわよ」
 いつもそんな風に自分がお姉さんであることを誇示して、自分の林檎に対する優位を確認してるようだった。ま、お姉ちゃんの頃にはまだ常時接続のブロードバンドなんてものは我が家には無くて、ネットは電話回線を使った従量制の課金で、電話が使えないとかとんでもない電話代の請求が来たからってお母さんに怒られてるのを見た記憶がある。そんなお姉ちゃんの時代のことを考えると、何の心配も無くネットが使い放題の今は幸せだと思う。お姉ちゃんの嫉妬もわからないではないけど……。
 まもなくお父さんも帰ってきたので、青森家では久々に家族が揃った夕食になった。お母さんとお姉ちゃんが林檎がネットゲームばかりやってるとお父さんに言い付けたりして憂鬱なんだけど、お父さんは叱ったりはしなかった。
「林檎。パソコンもネットもゲームばかりするものじゃないぞ」
 お父さんはそうだけ言って、林檎のことにはそれ以上触れようとせず、いつもお母さんとお姉ちゃんから庇ってくれている。家にブロードバンドを引いたのも、自分のお古のPCを林檎にくれたのもお父さんだから、あまり林檎が責められると自分の責任になるってこともあるんだろうけど。
 林檎のPCはお父さんのお古だけど、けっして世代遅れの低性能のマシンというわけではなかった。1年ぐらい前にお父さんが学生時代の友人のアドバイスを受けながら作った自作PCで、CPUは今でも見劣りしない高性能だし、メモリはマザーボードの上限まで搭載してる。おまけに最新のGPUカードを増設してるから最新の3Dゲームも怖くないスペックなのだ。そんなPCが林檎のところに回って来た理由は、お父さんが仕事で新しいノートPCが必要になったから、林檎の高校進学祝いで買って貰うはずの新しいPCの予算がそれに回った代わりということだった。
 もっとも、お父さんの書斎には別の古いPCもあったけど、OSが古くてセキュリティのサポートとかも終わってしまった機種だからって、林檎には回せなかったらしい。この高性能な自作PCのスペックのおかげで、必ずしも必要スペックとしてユーザー環境に優しいとは言えない『ドキドキワールド』もストレスを感じることなくプレイできるのだった。
「お父さんもPCを始めた頃はゲームばかりやってたからなぁ」
 お父さんの頃にはもちろんネットゲームなんて無かったけど、今では成人向けしかないようなPCゲームにもコンシューマー機で出てるような一般向けのゲームがいろいろあったらしい。それに、林檎には信じられないことだけど、お父さんの時代には学校でパソコンの授業とかは無かったらしいし、ゲームも雑誌に載ってたプログラムを打ち込んで遊んだりもしてたらしいのだ。
 林檎はそんなお父さんに親しみを覚えていて、家族の中で一番大好きだった。

「梨紅、今夜は彼氏とデートだったんじゃないの?」
 林檎のゲームの話題がひと段落した後、お母さんはお姉ちゃんにそう聴いた。お姉ちゃんは以前から付き合ってる人がいて、すでに両親にも紹介を済ませた公認の仲らしい。
「急な仕事が入ったからって、ドタキャンよ。もう知らないわよ、あんなやつ……」
 なんかずいぶん怒ってるらしい。でも、そんな風に怒ってるお姉ちゃんを見るのは珍しいことでもなく、いまだに付き合いが続いてるってことは、ほんとうはたいして怒ってないのかもしれない。

     ☆ ☆ ☆

 その同じ頃、都心の一角にあるあるサーバーレンタル会社のサーバールームの1つで、大掛かりな作業をしているチームがいた。
「急に実験の予定を入れてしまってすいません、主任」
 技術者の1人がまだ若いリーダー格の男に頭を下げた。
「お嬢様の都合が今晩しか空いてないんじゃ、仕方が無いよ」
 主任と呼ばれた男はそう言った。彼らは『ドキドキワールド』を手掛けてる大手のシステム開発会社の研究スタッフで、このサーバールームはその会社が丸ごと借り切ってるスペースだった。この中のいくつかのサーバーは『ドキドキワールド』の運営に割り当てられていて、今も稼動中である。
 彼らが陣取っていたのはそれとは別のサーバーマシンの前であり、マシンから出てきたいくつかのケーブルが、頭の部分にカプセルのようなパーツをつけたリクライニングチェアのようなものに繋がれていた。
「まだセットアップ出来ないの?」
 傍らにいた、その場に場違いのロリータファッションの女性が言った。
「もうすぐですよ、お嬢様」
 主任は彼女を宥めるように言った。
「このシステムはプレイヤーの意識をクライアントアプリとシンクロさせることで、あたかも自分自身がゲーム上のキャラクターになったかのようにステージ上の後継を知覚し、思考通りにキャラクターをコントロールできます。もちろん、その自由度はクライアントアプリの自由度に左右されますから、従来のゲームパッド等の入力による自由度と比べて優れているというわけではありませんが、より実体験に近い感覚でプレイできるでしょう」
 彼女は促されるまま、リクライニングチェアに腰を落とした。そして、彼女の頭部を覆うようにカプセルがセットされた。
「すでにもっとコンパクトな家庭向けのシンクロナイザー装置が量産テストに入ってますが、今日は実験データを取らせていただきますので、この大型の試作装置で我慢してください」
「わかったわ。それで、具体的に何をするの?」
 彼女は主任の目を見つめた。
「接続先のサーバーには『ドキドキワールド』のサーバーシステムのバックアップが組み込まれています。お嬢様にはプレイヤーキャラになりきって、ゲームの世界を体験して、その感想を聞かせていただきたいのです。まぁ、実験段階で本物のシステムに繋ぐわけにはいきませんから、クローズドな環境で他にはNPCしかいませんが……」
「それじゃ、詰まらないわね」
 イタズラっぽく笑う彼女に、主任は困ったような顔をした。
「そんなことは仰らずに。商品化前にお嬢様にチェックしていただくことは社長からの命令ですから」
「お父様にも困ったものね」

 その時、一瞬、部屋が暗闇になった。すぐに照明は復活したし、UPSで電源補償されてるサーバーマシンたちの動作にも何の影響も起きなかったが、この部屋にいた一同には何か嫌な予感が感じられた。しかし、誰もそのことを口にしなかった。
「落雷でもあったのかしら?」
「これくらいのことは何でもありませんよ。セットアップももう終わりそうです」
 その主任の言葉を裏付けるように、間髪置かずして技術者たちから準備完了の報告があった。
「主任、セットアップ完了しました」
 報告を受けた主任は、自分たちの会社の社長令嬢に向かって言った。
「それではシステムを起動しますよ、お嬢様」
 1階上のフロアで作業していた別のシステム会社の操作していたスパコンが謎の暴走を始めたのはそれとちょうど同時だった……

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『冒険少女隊ドキドキファンタ』第1話・前書き
 予定を変更して新作シリーズを掲載します。

 大人気テレビアニメ『冒険少女隊ドキドキファンタ』の非公式ノベライズ版の登場です。
 この作品は2007年1月から12月に掛けて日曜の朝、日本橋テレビをキー局に全国11局ネットで放送された全52話の番組です。途中、主役声優の不祥事による主役キャストの交代(ただし、日本橋テレビやアニメの製作会社ではキャストの交代理由は明らかにされていない)などの事件があったものの、作品自体は非常に公表で、翌年も続編シリーズの放映が続けられることになりました。
 このノベライズ版は当初、大手出版社のライトノベルのシリーズとして予定されていましたが、主役交代事件の余波で企画が停止したままになってしまいました。これを今回、ネット上で公開することになったわけです。

 ノベライズはテレビシリーズ全52話から厳選されたエピソードを各巻4話ずつ、全6巻構成の予定でしたが、今回はまず記念すべき第1話を掲載します。
 このノベライズ版は当該エピソードの担当脚本家によるシナリオ最終稿を下敷きにしていますので、実際に放映されたアニメの内容とはすこし異なってる場合もありますが、こちらの方が脚本家の意図が反映されていると考え、絵コンテやアフレコ台本等による修正の補完は行っていないことを断っておきます。

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