もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第03話「一卵性双生児」
「ごめんなさい。最初にちゃんと説明しとけばよかったわね」
 浴室から出てきて、ようやく落ち着いた亜梨子に春香は謝った。
「うちは家族が多くて時間のやりくりが大変だから、いつもお風呂は混浴なのよ」
「信じられへん……」
 亜梨子はぼそりとつぶやいた。
「うちの子たちは小さい時からずっとそうだったから、別に亜梨子ちゃんのことだって何も気にしたりはしてないのよ」
 亜梨子の裸を見たり、亜梨子に裸を見られたりしても何とも思ってないから心配は要らないって話らしいけど、納得はいかない。
 しばらくして、例の男の子も現れた。
「満梨花じゃなかったのか……」
 彼はまったく悪びれもしない素振りでそう言った。亜梨子はまた出て来た満梨花って名前に疑問を持ったが、それよりこっちの方が大事だとばかりに、絶対に許さないとかいう表情で彼を睨みつける。
 風呂場で投げ付けたシャワーのノズルは、ホースの長さが足りずに彼には届かず、落下音を響かせたのと、周囲を水に濡らしただけで終わってしまった。傍から見たらマヌケな行為だと思えたが、それだけに亜梨子の怒りは収まらなかったのだ。
「そんなの怒ることないじゃないか。お互い様だろ。見られるのが嫌だったら風呂の前のボードに男子禁止のプレートを貼っとけよ」
 その言葉がまた亜梨子の怒りに火を注いだ。それにボードとかプレートとかなんて知らないし……
「お風呂のボードのことは私のミスだから……亜梨子ちゃん、後でちゃんと教えるわね。浩樹くんも悪気がなかったのはわかるけど、亜梨子ちゃんはこの家は初めてなんだし、女の子の裸を見たのには違いないんだから謝っておきなさい」
 春香はそう言って2人を宥めようとしたが、彼は従おうとはせずに、そのまま居間を出て行った。
「素直じゃないんだから……ごめんなさいね。そうそう、亜梨子ちゃんに紹介しなきゃいけなかったのに……。ま、夕食時にはみんな揃うから、家族の紹介はその時で良いでしょ?」
 同意を求めるように言われたので、亜梨子は頷いた。
「今のは浩樹くんで、亜梨子ちゃんと同じ中学一年生ね」
 いうまでもなく、彼はこの家の子供らしい。亜梨子に対してあんな態度なのは、やっぱりこの家の正式な子供にとっては、愛人の子だか何だか知らない亜梨子の存在なんてのは邪魔だからってことだろうか。やっぱり、この家に来たのは間違いだったんじゃないかと亜梨子は思い始めていた。

 時を置かずに、今度はやはり同い年ぐらいの女の子が入ってきた。
「浩樹が不機嫌そうに出て行ったけど、何かあったの?」
 彼女の格好はグレーのTシャツに青いショートパンツという軽装だった。露出した腕や足の肌の色からスポーツ系のタイプみたいだった。亜梨子は自分に出された着替えがそうだったから、この家ではスカートしかダメかと思ってたのだけど、そうでもないようだ。ただし、Tシャツもショートパンツもスーパーで売ってるような安物ではなく、海外のファッションメーカーのロゴの入ったブランド品みたいである。
「ちょっとね……。それより弘美ちゃんはシャワーはいいの?」
「私は学校で浴びてきたから……」
 春香とそんなやりとりを交わしながら、亜梨子の存在に気付いた彼女はこちらをじっと見つめた。
「ふぅ~ん、この子か……。確かに満梨花とそっくりね」
 また、満梨花? 亜梨子は自分だけが除け者で会話が進められてるようでイラついて来た。
「亜梨子ちゃん、この子が弘美ちゃん。この子も中学1年生よ」
 今度は忘れないようにと春香は慌てて紹介した。
「ほな、さっきの子と双子なんや」
 しかし、即座に帰って来た答えは……
「違うわ」
 亜梨子は状況的に確信できることだと思って軽く口に出しただけだったのだが、その素っ気無い返事に少し困惑した。しかし、弘美は正解を述べることはなかった。
「ママ、今日の夕食の時間は?」
「今日はパパも一緒だから少し遅くなるわ」
「じゃあ、昼寝してくる」
 弘美はそう言って出て行った。
「愛想のない子たちでごめんね」
 春香はそう言って苦笑した。
「満梨花ちゃんは病院に行ってるけど、もうすぐ帰って来ると思うわ」
 あたかも亜梨子が満梨花を知っていて当然のように春香は言った。もう亜梨子は限界だった。
「満梨花って誰?」
 一瞬、空気が凍りついた。
「亜梨子ちゃん、本気で言ってるの? 冗談でもおばさんは許さないわよ」
 春香の目は真剣だった。
「だ、だって、うち、本当に知らへんねもん……」
 急に表情の変わった春香にびっくりして、亜梨子は少し涙ぐみながら言った。
「満梨花ちゃんのこと知らないって……洋子……お母さんから何も聞いてないの?」
 今度は春香がびっくりしたように言った。
「うん……」
 亜梨子の返事に、今度は困惑の表情を浮かべた。
「あの子ったら……」
 そして続けるように訊いた。
「それじゃ、お父さんのこととか、この家のこととかも?」
 亜梨子は全然という素振りで首を振った。
「仕方がないわね……」
 春香は観念したかのようにつぶやいた。
「いいわ。この家のこととかは、みんな後でお父さんに教えてもらうから」
 そう言ってから、今度は大切なことだと言わんばかりに春香は姿勢を正した。
「満梨花ちゃんはあなたと一卵性双生児の妹よ。あなたと一緒に洋子……さんから生まれてきたんだけど、小さい時から病弱だったから、洋子さんが出て行くときに、あの子だけうちで引き取って育ててきたのよ」
 自分と双子の妹がいるとか言われて、どう反応していいのか亜梨子は戸惑った。
「これはお願いだけど、満梨花ちゃんの前では知らなかったなんてことは絶対に言わないでね。あの子はずっとあなたに会えることを楽しみにしてたんだから……」
 確かに自分がずっと相手に会いたがっていたのに、その相手に自分のことなんか知らないなんて言われたら大ショックである。しかし、だからって満梨花という妹が目の前に現れたらどんな反応を示していいのか、亜梨子はわからなかった。

 その満梨花は程なくして帰って来た。
「あ、亜梨子ちゃんだよね!」
 はしゃぐような声の方を向くと、そこには自分にそっくりな顔があった。一卵性双生児っていうから想像はしていたのだけど、実際に自分と同じ顔をした人間を見るというのは奇妙なものである。普通の双子なら物心付いたときからそういうものだと理解してるからそんなことは無いのだろうけど、亜梨子はそれを自然に受け入れられるようになるのか不安を感じた。
「ずっと会いたかったよぉ!」
 満梨花はまるで飛びつくかのように駆け寄ってきて、亜梨子の手を握った。病院に行っていたというのを証明するかのように、満梨花からは少し医薬品の匂いがした。そして、顔や体格が同じでも満梨花は少し華奢で色白だった。
 亜梨子が何を言い返せばいいのか迷ってる間にも、満梨花は矢継ぎ早にいろいろと話し掛けてきた。勢いを掛けて噴き出してくる言葉に、この子は本当に自分と会うことを楽しみにしていたんだと実感した。それに比べて、何も言葉が出てこない自分は、なんて最低なんだろう。満梨花のことを何も教えてくれなかった母を、この時初めて本当に恨めしくなった。

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