もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第06話「真祖の姫」
 食後の行動はみんなバラバラだった。綾香たち三人はそのまま自分たちの部屋に引きこもってしまったみたいで、父親も書斎に言ったようだった。春香にお茶を入れるからと言われて亜梨子は満梨花と一緒に居間に向かった。
 そこには先に小学生の三人が来ていたが、末っ子の冬樹は亜梨子の顔を見るなり飛び出すように出て行った。
「嫌われちゃったかな?」
 亜梨子はちょっと気まずさを覚えた。
「仕方が無い子ね」
 春香が済まなさそうに言った。
「ごめんなさいね。人見知りの激しい子なのよ。別に亜梨子ちゃんのこと嫌ってるわけじゃないと思うから……」
 そういいながら春香は自分で淹れた紅茶を差し出した。食後のお茶はメイドさんたちの仕事では無いらしい。亜梨子は後から知ったが、家族の食事が終わった後は使用人たちの食事時間になるから余計な仕事を与えたりはしないとのこと。とくに今夜は亜梨子の歓迎で使用人たちにもご馳走が振舞われているらしかった。
「冬樹ったら、佳澄お姉ちゃんにもなかなか馴染まなかったからね」
 別居中だという長女の話である。元から同居していたら馴染むも馴染まないも無いと思うのだけど、ひょっとして長女は冬樹が生まれた時はもう別居してたってことだろうか? 亜梨子はわけがわからなくなってきた。
 冬樹が人見知りなのはわかったけど、残った二人の姉の方も亜梨子を警戒してる様子は同じように思えた。やっぱり、さっきの浩樹にとった態度が拙かったんじゃないかと亜梨子は後悔した。
「あなたたちは亜梨子お姉ちゃんに何か言うこと無いの?」
 気まずい空気を読んだのか、春香は夏美と秋菜に言った。
「う~んとね……」
 言い難そうな口調で秋菜は言葉を詰まらせたが、横から夏美に小突かれていた。
「亜梨子お姉ちゃんって、ヒロにいのこと嫌いなの?」
 ヒロにいというのは浩樹のことらしい。
「うっ……」
 思い切り直球を投げられた気がして亜梨子は言葉に詰まった。
「いや、嫌いってわけじゃ……」
 裸を見られたことを怒ってるって、そんなこと恥ずかしくて言えないし。そんな亜梨子の窮状を見て春香が助けてくれた。
「ちょっとケンカをしただけだよね。あなたたちだってしょっちゅうケンカしてるでしょ?」
「うん」
 春香の言葉を聞いて秋菜は頷いた。
「ま、ヒロにいはいつもアヤねえやヒロねえとケンカしてるもんね」
 夏美も納得するように呟いた。
 兄弟同士ってそんなによくケンカするものなのかと、亜梨子は思った。自分は一人っ子だったからケンカする兄弟なんかいなかったし、学校のクラスメイトたちともケンカなんかすることは無かった。幼稚園の時に一度だけ大きなケンカをした時、自分はみんなとは種族が違うのだからケンカをしてはいけないと母親に激しく叱られたからだ。だから、亜梨子は学校では控えめに過ごしてきて、けっして目立とうとはしなかった。存在感が薄けりゃ下手にトラブルに巻き込まれる可能性も低いからだった。
 その代わり、代償として母親には甘えた。母子家庭のことだから経済的にわがままを言うこと出来なかったが、それ以外のことは何でも聞いてもらっていたような気がする。もっとも自分がこんな家のお嬢様だと知っていたら、経済面での遠慮なんかしなくても良かったのかもしれないけど……
「浩樹ちゃんとケンカって、何かあったの?」
 今度は満梨花が不思議そうに訊ねてきて、亜梨子は困ってしまった。この子って何かしつこく訊いてきそうだなという風に感じる。
 満梨花の追及をどうかわそうかと思案していた亜梨子だったが、幸いにも偶然に助けられてしまった。
「亜梨子お嬢様。旦那様がお呼びです」
 夕食時に執事長だと紹介された二階堂が、そう言ってやって来たのだ。亜梨子は満梨花の質問なんか忘れたように二階堂に連れられて父親の書斎に向かった。

「春香から話は聞いたが、洋子からは私のことや我が家のことは何も教えられてなかったようだね」
 書斎に入ってきた亜梨子に父親の一樹はそう訊ねた。亜梨子はこくりと頷いた。一樹は何かを考えてるかのようにしばらく沈黙した。
 亜梨子は書斎を見回したが、書斎机の上に置かれた二つの写真立てに目が止まった。それぞれ別の若い女性の写真のようだったが、自分の母や春香の若い頃の写真のようには見えなかった。でも、机の上に堂々と飾っているところを見れば、このことは春香も知っていることなんだろう。
「今から大事なことだけ話すから、よく聴きなさい」
 一樹はそう言うと、この千条院家のことを語り始めた。
「亜梨子は月からやって来たお姫様の話は知っているか?」
 かぐや姫の話でもしてるのかと思ってしまいそうだか、もちろん一樹が話しているのはかぐや姫のことではあるまい。亜梨子は四十年前にあったという歴史上の事件のことを思い出した。もちろん、亜梨子がリアルタイムに出会った事件なんかではなく、今では絵本にもなって語られてる事件だから、亜梨子の方もその程度の知識ではある。
「うん」
 亜梨子が頷いたので一樹は詳しくは語らず、簡単に概要だけ述べるに留まった。
「現在のこの世界は四十年前の異変に始まった。知っての通り、科学の世界の地球と魔法の世界の地球が半分ずつ入れ替わってしまったのだ。入れ替わってしまったというのは正確ではないかも知れない。この世界に残っていないお互いの地球のもう半分ずつの方はどうなってしまったかはわからないからだ」
 平行世界の交差軸における時空断層の歪みが生じたのだとか、二つの世界に対して何者か外部存在の介入による時空のデコヒーレンス現象が起こったのだとか、科学者やSF作家が様々な仮説を出してきたが、この四十年で解答はまだ得られていない。
「その異変の直後、魔法世界の月から降りてきたのがいわゆる月の王女、プリンセス・ルナだ。魔法の世界では科学の世界よりも早く人類は月を開発し、王国を築いていたわけだが、科学世界の人たちにとって王女は神秘の存在として受け止められた。王女は科学世界のこの国に居住権を要求し、この国の男性と結婚した。それが、私の両親だ」
 月の王女が父の母親、すなわち自分の祖母だと聞いて亜梨子は驚いた。それが本当なら自分は月の王国の王家の血を引くってことになるのももちろんだけど、何より絵本にもなって女の子の憧れの対象である伝説の王女が自分の近親者だってことが信じられなかったからだ。
 しかし、一樹の話はそうではなかった。
「正確には母は月の王国の王女ではない。だが、この国の政治のため、月の王女ということにされてしまっている。本当は魔法の世界のこの国の第一皇女だったのだ。魔法世界のこの国は今の世界には残っていない。母はたまたま月の王国に親善訪問していた時にこの異変に遭遇した。そして同じように異変時に海外にいてこの世界に残ることになった自分の国の民を救うためにこの国に降りてきたのだ」
 確かにこの国の学校教育で習う歴史では消え去ったもう半分の世界にあった国々のことも語られてるし、現在この世界にあるその半分の世界にもそれに相当する国々が存在している。だから、科学世界にあったこの国に相当する国が魔法世界にあったと考えるのは当然のことだった。しかし、亜梨子は自分が魔法世界に由来する種族であるにも関わらず、今まで魔法世界のこの国のことなんて想像したことも無かった。ましてや自分がその王族の血統だなんて……
「魔法世界で神皇家と呼ばれていたわが家系は、真祖と呼ばれる始原十六氏族の直系の一つである」
 始原十六氏族というのはハイエルの祖先たちが氷河期の穴居生活を終えて世界の支配者として君臨し始めた時に指導的な立場にあった有力な十六氏族のことである。魔法世界の古い王族や上流貴族の多くはこの始原十六氏族に始祖を持ち、その中で直系を受け継ぐ家系が特に「真祖」と呼ばれている。
「魔法世界のこの国のことは今さら仕方がないことだ。しかし、真祖というのはハイエルの社会にとって特別な血統であるということは覚えておいて欲しい。そして、おまえはその真祖の二番目の姫だということは自覚しておきなさい」
 自分が姫だと言われて亜梨子は少し困惑したが、要するに王家としての実体は無いけど王族としての誇りは忘れるなとかいうことではないかと理解した。そんなことはこの家に住んでいたら大事なことなのかもしれないけど、今の自分の生活には関係ないだろうと思った。しかし、この真祖の姫だということが本当はもっと別の意味を持っていることに亜梨子が気付くのはずっと後のことである。

 亜梨子は父親に会ったら自分の母親のことを訊きたいと思っていたけど、あまりに重そうな話を聞かされたので、今日のところは訊きそびれてしまった。後、書斎机の上の写真立ての女性も気になったけど……

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