もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第08話「夕立のアクシデント」
 そんなこんなで一学期も終わり、長いようで短い夏休みがやってきた。大敵の宿題は適当に済ませてしまって後はのんびりと過ごそうかと目論んでいたのだけど、それが甘い期待だったことは夏休みも初日に早くも実感させられてしまった。もう初日から宿題の溜まった最終日が連日大挙してやってきたような気分を味わっていたのだ。
 その元凶は萌黄はるな。この関西弁の同人女はどうしても僕を同人誌作りから解放してくれないのである。
「ボサボサしとったらあかんで。このままやと印刷所の入稿日に間に合わんからなぁ」
 どこで突き止めたのか僕の家に日参して原稿の執筆を監督するのである。
「アニメ同人誌と一口にゆうても2種類ある。十八禁本と一般本や。売れ筋狙うんやったら十八禁本の方やな。例えばこんなんやけど……」
 はるなの取り出した同人誌の一冊は、ファンタアップルが一糸まとわぬ姿になってレギュラーの男性キャラとその手の行為にふけってる内容だった。同人誌というイメージというより、アニメのキャラクターを使ってる以外はエロ本そのものじゃないか。
「どうや、エロいやろ」
 あまりの内容に赤面してる僕の顔を覗き込むようにはるなは言った。だいたい年頃の女の子がクラスメイトの男子の部屋に上がりこんで話題にするようなものじゃないだろ。どういう神経してるんだ、この同人女は。それに、高校生の分際で十八禁の同人誌なんかどうやって手に入れてきたんだ? まあ高校生なら多少おとなぶれば十八歳以上に見えないことも無いだろうし、ネットの通販なんかじゃ年齢も誤魔化し放題だろうけど。
「正直言って、十八禁本は画力がすべてやから初心者には敷居が高いと思うけど……」
 いや、画力云々より本人にその手の経験が無きゃ、あんなもの描けないだろ。初心な僕は本気でそう思った。後から思えば本人に経験がなくったって先人の作品をまねるなり、エロビデオを参照にしたりネットの無修正サイトを見たり、いくらでも参考にするものはあるんだろうけど……
「せや、沢村やったら妹さんの喘ぎ声でも想像しながら描いたら、さぞかしものすごい作品ができそうやな」
 ありすの喘ぎ声?……確かにファンタアップルのキャラでエロマンガを描いたら、その声のイメージはアニメの声優であるありすの声ってことになる。そう思いながらもう一度目の前の十八禁同人誌に目をやったとたん、僕の顔から激しく火が出た。マンガの吹き出しのセリフがみんなありすの声で聞こえてきたからだ。
「どうや? イメージ沸いて来たか?」
「そんなもん、描けるかっ!」
 僕は必死で抗議しようとしたが、海千山千の同人女は構わずに続けた。
「沢村って童貞か? 経験が無いから描けへんゆうんやったら、うちが経験させてあげてもええで」
 いったい何なんだ、この展開は。文字通り僕にエッチさせてくれるとか言ってるのか、この同人女。女の子ってそんな簡単にエッチさせてくれるものなのか? いや、若い男女が二人っきりの部屋でエロ同人誌なんか眺めてたら、こういう極限の精神状態に陥っても不思議じゃないのかもしれないけど……
 相手に問題が無いわけじゃないけど、運動部の二枚目ヒーローでもなけりゃ、こんなふうに経験できる機会なんて滅多に無いぞ。がんばれ、オレ。僕はそんなふうに自分を励まそうとしたが、同時にそれが罠であるかのような不安を感じた。服を半分くらい脱がせたところで大声でも出されれば、少なくとも家にいるはずのちとせの耳には届く。駆けつけたちとせがどちらを信用するかは知らないけど、一般的には女の子の方だろう。そうして僕はレイプ魔というレッテルを貼られ、それを弱みに握られたまま今後もずっと同人誌作りに付き合わされ続ける羽目にでもなりかねない。
 そんな僕の戸惑いを見透かしたのかどうか、はるなは続ける。
「遠慮せんでええで。うちらの同人誌のためやったら、うちの処女くらい沢村に何ぼでもあげたるわ」
 いや、処女が何ぼも無いだろ。それよりおまえ、処女だったのか? さっきからその手の話をまったく恥ずかしがる気配すら見せない態度に思わずツッコみたくなったけど、それはやめた。やめて正解だった。はるなの言葉は続いた。
「……と言いたいところやけど、うちも高校生やし今回は一般系サークルとしてエントリーしとるさかい、十八禁ネタは厳禁なんや。残念やったな」
 おいおい、今までのは僕をからかうための冗談だったってか。それにしたって処女をあげるとかあげないとか、付き合ってもいない相手に女の子が平気に声を出して言うことじゃないだろ。同人女って人種は下ネタ的な感覚が麻痺でもしてるのか?
 ともかく、そう言ったはるなは今度は一般系だという同人誌の束を取り出した。最初からそれを出せよ。
「ま、こんなところが売れ筋のサークルの本や」
 パロディとかギャグとか、今度は普通に安心して読める内容の本だった。
「こっちも画力で攻めるって線もあるけど、マジにオリジナルストーリーを組んでたりしたら限られた枚数に収めるのも大変やし、描くのもしんどいからなぁ。ネタで攻めるのが楽でええやろ」
 確かにキャラクターのデザインはおおよそ同じアニメのキャラを基にしたのとは思えないくらいバラバラだし、ものすごく細かく背景を描き込んだ作品もあればスクリーントーンでイメージ的に処理してるものもあれば、真っ白なものもある。キャラだって、アニメのイメージをちゃんと残ってれば良い方で、中には似ても似つかないキャラを無理やりファンタアップルだと押し通してるのもあった。
 しかし、どれも奇妙なことにページ数だけは区切りのいい数字で揃っていた。
「印刷に出したら8ページとか16ページ単位で処理されるし料金体系もそれに合わせとるから、中途半端なページ数やと余った分が無駄になるんや。それに最近は個人サークルが多いさかい、毎回イベントに合わせて何本も作品を用意できへんから1冊16ページや32ページってあたりが多いんやろな」
 個人サークルで出してるのが多いって、そりゃ個人誌であって同人誌とは言わないだろ……とかツッコみたくなってきたけど、この世界ではそういうものらしいと受け取っておくことにした。いや、それならおまえも個人サークルとして一人でやれよとか言ったのだけど……
「うちは去年までグループでやってたし、一人でやるんは経験あらへんからなあ」
 他人様にこれだけ詳しく講義できる時点で十分経験があると思うぞ。
「うちらの今度の本は32ページで行くさかい、沢村には16ページ描いてもらうで」
 半分描けってか。……というか、僕とはるな以外に他のメンバーはいないのか? 漫研の連中に手伝わせるんじゃなかったのか?
 しかし、はるなはそれだけ言うと帰り支度を始めた。
「うちも自分の原稿描かなあかんさかい、今日はこれくらいにしとくわ。印刷のスケジュールがあるから締め切りは厳守やで」
 それから思い出したように付け加えた。
「そこの十八禁のやつ、沢村にあげるからおかずにでも使ってやってや」
 要らんわいっ!

 はるなが去った後、僕は意外とまじめに同人誌に描くネタを考えていた。言うまでもなく、昨日今日描き始めた人間に他人様に見せられるような画力があるわけないから、はるなが言うようにネタに頼るしかない。
 でも、どうにも良いネタが浮かばない。おまけに変なもの見せられたおかげでファンタアップルのことを考えると、どうしてもそっちの方の妄想が頭をよぎってしまう。夕方になって空がどんより曇り空気中の湿気が高まってくると、ますますイライラして何も考えられなくなってしまった。
 そうなるとつい、はるなの残していったエロ同人誌に手が伸びてしまい、本能の趣くままにページをめくり始めた。あられのない姿のファンタアップルの痴態は、ほとんどプロと思しきその画力と脳内にリアルな音声で再現される吹き出しの声と相まって、頭の中に焼き付いて離れなくなってしまった。
 結局、僕はその性衝動を抑えられず、オナニーを始めてしまった。断っておくけど、このとき僕の頭の中に聞こえていたファンタアップルの声はあくまでアニメキャラとしてのイメージであり、ファンタアップルはあくまで僕の頭の中で擬人化されたキャラクターのファンタアップルだった。欲情の対象としてのそのファンタアップルは、けっして現実にアニメの声を出している声優の声でも、ましてやその声優本人をイメージしたものでは無かった。
 窓の外はいつしか真っ暗になり、土砂降りの雨が窓ガラスを濡らし始めていた。時々遠くの稲妻の閃光が空を輝かせて見えるが、一度やり始めたものを途中でやめられるわけもなく、僕はオナニーを続けていた。
 そのうち騒がしく玄関を開け閉めする音が聞こえた。
「夕立が降るなんて天気予報で言って無かったのに。もうずぶ濡れ!」
 ちとせと話してるのか、ありすの声が聞こえた。どこかに出掛けてたらしい。ありすもこの家にやってきた頃はわりと何事も丁寧な振る舞いをしてたものだけど、もう最近は慣れてきたのか、ずいぶんがさつなところも目立ってきている。
 それはともかく、なんてタイミングで声を聞かせるんだ、こいつは。頭の中のファンタアップルの声がたちまち現実のありすの声に置き換わってしまった。頭にこだまするありすの声はたちまちファンタアップルのビジュアルなイメージもありすの姿に変えてしまう。僕の頭の中には目の前のエロ同人誌のキャラクターそのままの格好をしたありすのイメージが出来上がってしまった。
(何を考えてるんだよ、オレって……)
 理性はそれを打ち消そうとするけど、僕の下半身は十分すぎる反応を示していた。そのまま絶頂に達し掛けようとしていた時、突然、激しい閃光と大きな爆音と空気の振動がすぐ近くへの落雷を告げた。それと同時に周囲の明かりが消え、一面闇に包まれた。
 僕の手は一瞬止まったけど、ただの落雷による停電だと気付くと絶頂に達し掛けた快楽をやめられるわけもなく、暗闇の中で行為を続けた。しかし、それが間違いだった。慌てた悲鳴と共に部屋のドアを開けて不意に侵入して来た影があった。
 その影はベッドに腰掛けてオナニーしていた僕に、いきなり抱きついてきた。
「お兄ちゃん、怖いよ……」
(あ、ありす……?)
 雷に脅えたのか、それとも暗闇を恐れたのか、ありすはまるで固く抱擁するようにしっかりとしがみついてきた。僕は両手でそれを優しく受け止めようとしたのだけど、同時に露出したままの僕の下半身は何か温かいものに密着し、自分のものとは違う鼓動を感じ、そして一気に絶頂に達してしまった。
 僕が射精を自覚するのとほぼ同時に明かりが戻った。僕の目の前に至近距離でありすの素顔があった。ありすは僕にしっかりと絡み付いていた腕を解くと、何かを感じたように下に目をやった。眼鏡が無いと見難いのか、顔をしかめて凝視している。僕は一瞬置いてからそれが何かに気付き、慌てて目をやった。タンクトップとホットパンツという軽装のありすの露出した腹部に、それは触れていた。
 僕は性器をしまうよりも漏れた液体を始末しようと近くにあるはずのティッシュペーパーを手探りで探した。しかし、僕がティッシュを見付けるよりも早く、ありすは事態を把握してしまったようだった。
 ありすは無言で強く僕を突き放すと、付着した精液を拭おうともしないまま僕の部屋を飛び出していった。僕にはそれを呼び止める暇すら無かった。

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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