もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第10話「濡れたTシャツを隔てて」
 僕とありすの関係は改善されないまま八月に入ってしまった。
 七月中は暇そうに普通の高校生の夏休み(といっても週二回のレッスンと土曜のアフレコはいつも通りだけど)を過ごしていたありすも、八月になると仕事の関係で多忙を極めるようになっていた。
 ありすの出ている『ドキドキファンタ』は予想外の人気を博し、そのため夏休み中の全国イベントツアーが組まれていた。当然、主演のありすは九州から北海道まですべての会場を回る予定になっていた。もちろんその間も毎週のアフレコはあるわけだし、イベントと重ならなければ劇団のレッスンにも出掛けるから、週の大半はどこかに出掛けていることになる。せっかくの夏休みだというのに声優さんも大変な仕事である。
 八月初めの日曜はイベントツアーの皮切りに九州の博多でイベントがあった。開演は午後からだが、リハーサル等で朝から会場に入らないといけないので、土曜のアフレコの後、博多行き最終の《のぞみ》で博多入りするらしい。
 昼食時、すでに余所行きのおしゃれをしたありすは、相変わらず僕と目を合わせようともしないまま出掛けていった。しかし、今日明日の二日間ありすの冷たい表情を見なくてすむと考えるとほっとした。もっとも、ありすがいないってことは仲直りの機会も無いってことでもある。

 午後、久しぶりにはるながやってきた。明日が印刷所への入稿日ってことで原稿の督促である。描けてないなら徹夜で泊り込んででも描かせるって勢いだったが、あいにくと僕の原稿はほとんど仕上がっていて、一部の墨入れとトーンの貼り付け、それにネーム入れが残ってるだけだった。内容は宇宙の果てから白い彗星が攻めてくるという昔のSFもののアニメのパロディで、『ドキドキファンタ』の登場人物たちがそれに立ち向かって次々に死んでいくという話である。ラストはエルフプリンセスに率いられたファンタアップルが特攻してラスボスを倒し宇宙に平和がやってくるという話だけど……実はみんな生きていたってオチ。出来は問わないで欲しい。
「明日から『ドキドキファンタ』の全国イベント始まるみたいやけど、主役やから全会場参加って、妹はんも大変やなぁ」
 ふと、はるながそんな話題を切り出してきた。こいつ、なぜかありすの仕事関係の情報には異様に詳しい。ま、これくらいのことは『ドキドキファンタ』の公式サイトとか、劇団《うみすずめ》のサイトのありすのページを見ればわかることだけどね。
 はるながありすのファンだというのは本当のことみたいだけど、その割には学校ではそんなに親しそうには見えない。ありすはありすで他に仲の良い友人が何人か出来てるみたいだけど、女の子って付き合うグループがきっちり別れてしまってて、グループが違うとほとんど話もしないみたいだからよくわからない。はるなも何度もうちに来てるのに、ありすに会おうとしたことは一度も無いし……ファンだから余計に近付き難いって面があるのかもしれないし、正直言ってありすの性格からするとこういう同人女はあまり相手にしたくないって雰囲気は感じる。まぁ露骨に嫌ったりはしてないだろうけど。
 僕がそんなことを思いながら原稿を仕上げていると、はるなは続けた。
「このイベントツアー、この近所は盆の真っ最中やな。出演者の家族やったら招待券とかもろとんねやろなぁ?」
 そういえばこの前、《うみすずめ》の東山先生経由でそれらしいチケットが届いていたけど、それを見たありすが「恥ずかしいから見に来ないで!」と言って、封を開けたちとせから全部取り上げていってしまった。本人から渡させずに家に直接送ってきた東山先生もありすが渡さないってことはお見通しだったんだろうけど、結局はありすの方が一枚上手だったみたいである。
「そうか、沢村は行けへんのか。そら残念やったな」
 はるなはさも同情してるように言った。これまでそのイベントのことなんか全然頭に無かったけど、はるなにそう言われると何だか行けないことが無性に悔しくなってきた。
「この前からOPが妹はんの歌うとる歌に変わったやろ。きっとイベントでは妹はんが生で歌うとるとこ見れると思うんやけど……お兄はんとしては見とうないんか?」
 そう言われればそういう可能性は十分考えられる。いや、だからこそ自分の下手糞な歌を聞かれるのが嫌でありすは速攻でチケットを取り上げたに違いない。しかし、やっぱり曲がりなりにも兄としては妹が晴れの舞台で歌ってる姿はちゃんと見届けてやるべきなんだと思えてきたけど……
「見に行けるものなら見に行くさ!」
 僕は吐き捨てた。
 このイベントは原作掲載誌の出版社が主催で、雑誌で参加者を募集してたはずだけど、もうとっくに締め切りは過ぎている。いや、それ以前にその原作掲載誌というのが少女マンガ誌というのが僕にとっては大きなハードルだったしね。そりゃネットのオークション等を探せば何枚かは売りに出てるんだろうけど……
 どうせ歌は歌なんだ。ありすの生歌が聞きたけりゃ、カラオケにでも引っ張っていけば済む話だ……と僕は開き直ろうとした。いや、カラオケに行くにはその前に仲直りしておく必要があるけど。
「せやったら、ええ話があるで。うちのとこにペアの招待券があるさかい、一緒に行かへんか?」
 なんか待ち構えてたように切り出してるはるな。用意の良いやつである……というか、これってもしかしてデートの誘いなのか? いや、この時すでに僕の頭の中ではステージ上で主題歌を歌うありすの姿が踊ってたし、はるなにはこの前、気まずいことがあった負い目もあったので、とくに断る理由も無くそれをOKしていた。
 なんとか僕が最後の原稿にパソコンでプリントアウトしたネームを貼り終えると、はるなは原稿をまとめて抱え込んだ。
「これでちゃんと印刷所に出せるわ。校正とかはうちがやっとくさかい、今度はモエケット当日の肉体労働を頼むで!」
 はるなはそう言うと嬉しそうに帰って行った。何が嬉しいのかは詮索するまい。

 翌日、僕は駅前のショッピングセンターに出掛けた。女の子と仲直りするにはまずプレゼントだろうと、ありすに贈るものを探しに来たのだけど……何を贈ったら良いのかわからなかった。
 だいたい、ありすの好きそうなものってまだよくわからないし、プロフィールに好きだと書いてあるようなものはファンからたくさん貰ってるから、今さら僕が贈ったところで有難味は全然無いだろう。女の子ものの服やアクセサリーなんかはとても売り場に近付けないし……適当にファンシーグッズややらぬいぐるみやら、軒並みな女の子グッズで喜んでくれるんだろうか? 下手すれば余計に機嫌を損ねる気がするし、何か愛着を持って使ってくれるものの方が良い気がする。かといって僕の小遣いでは予算は限られてるわけで……
 じゃ、ありすの身近にあって大事に使って欲しいし、実際に使ってくれるだろうってものは何だろうと考えてみたけどわからない。女の子の専用品なんて男の僕が買いに行けやしないし。ありすの周辺で一番目立っていて何か大切に使ってくれそうなもので、なおかつ売り場として男女の区別が無さそうなのは……というと、眼鏡ぐらいか? 確かにあの似合わない眼鏡は何とかしてやりたい。もっと女の子らしい眼鏡に変えるだけでも好感度は120パーセントアップだ。
 でも、ありすの今の眼鏡、死んだ父親にもらったものだとかで、なんか本人、異様に大事にしてるからなあ。下手に新しい眼鏡なんか渡すと怒りを増大させてしまいそうな気がする。それに眼鏡ってフレームはともかく、レンズは本人の目に合わせなければならないから勝手に買って帰るってわけにもいかない。ま、フレームだけ選んで後は自分でレンズを合わせてもらえば良いだけの話だけど、まず何より本人が喜んでくれないと意味ないし……
 結局、僕はプレゼントを決められずに本屋で暇を潰しただけの外出に終わった。本をプレゼントするって手もあるけど、それこそ人によって嗜好は千差万別だからね。かといって図書カードなんか無味乾燥なものにはしたくないし。
 女の子のことはちとせの力を借りた方が良さそうだけど、あいにく今日は月一回のサークル活動とかで出掛けていって留守だし……とか思ってると、空に入道雲が湧き立ち、すぐにでも夕立が来そうな気配がしてきたから、今日のところは諦めて家に帰ることにした。

 僕は急いで帰ったけど一歩間に合わず、家の近くで土砂降りに遭ってしまった。ずぶ濡れでたどり着いた玄関はすでにカギが開いていた。中には一組のスニーカーが脱ぎ捨ててある。見慣れた柄のスニーカーだったので僕は深く気にも留めず、ちとせが帰ってるのだろうとばかり思った。ちとせにしては玄関のカギが開けっ放しで無用心だったり、スニーカーの脱ぎ方が乱雑だった気もしたけど、何か慌てていたのだろうぐらいにしか思わず、僕はカギを閉めてスニーカーを揃えて置いた。
 部屋に行く前に濡れた服を選択に出し、体を拭くためのタオルを取りに風呂場に向かったら、中からシャワーの音が聞こえた。昼間っからシャワーなんて、ちとせにしては珍しいと思ったけど、別に脱衣場に少し入るだけで浴室の中を覗いたりするわけじゃないし、ちとせなら別にかまわないだろうと、僕は脱衣場のドアを開けた。
 中で乱雑に脱ぎ散らしてる服を見て僕は違和感を持った。ちとせにしてはかわいらしいブランド系の服だと思ったのだ。でも、そんなことを気にしてる場合じゃない。僕は濡れた服を洗濯用のカゴに放り込み、タオルを取るとTシャツとトランクスのまま部屋に戻ろうとした……
 しかし、それより一瞬早く、浴室のドアが開いた。条件反射的に振り向くと、そこにはありすがいた。濡れた髪と泣き出しそうな顔、そしてタオルも巻かずに無防備にさらされた濡れた裸身……
「ご、ご、ごめん! 覗くつもりじゃ……」
 僕は慌ててありすに謝ろうとしながら、その裸を見ないように背を向け、脱衣場から退散しようとした。しかし、それをありすの声に止められた。
「待って、お兄ちゃん……」
 ありすはそう言うと背中から僕に抱き付いて来た。僕はどうすれば良いのかわからず呆然としていると、背後からありすのすすり泣く声が聞こえてきた。
(な、何を泣いてるんだ?)
 僕は戸惑った。取り合えず僕に裸を見られたからとかいうわけでは無さそうだけど、でも、妹が泣きながら抱きついてくるような状況じゃ、兄として何とかしてやらなければならない。でも、こんな時って何をすれば良いんだ? 僕の頭にはありすを優しく抱きしめてやることぐらいしか思い付かなかった。
 僕はしがみつくありすの腕を緩めさせて向き直り、そして泣き続けるありすを抱きしめた。後から思えば、これで僕たちは後戻りできなくなってしまった。
 正面に向き合い抱きしめてしまえば、否応無しにありすの裸身を意識せざるを得なくなる。僕のTシャツはありすの濡れた髪や肌に触れてとっくに濡れてしまっていたが、それを1枚隔てた向こうに全裸のありすが体を密着させている。僕はありすを抱きしめつつも、そん感触に焦っていた。
「ハックシュン!」
 僕の口から不意にクシャミが出た。夕立に濡れた後、そのままさらに濡れたTシャツを着続けてたために寒気を感じたらしい。急に震えが来た。
 それに気付いたありすは、僕の胸に埋めていた顔を上げた。
「お兄ちゃん、お風呂入ろ」
 一瞬、僕はありすが何を言ったかわからなかった。
「お姉ちゃんと一緒に入ってるんなら、私とだって平気だよね」
 その言葉で僕の中の何かが吹き飛んで行ってしまった。
 体を温めるには少しぬるめのお湯に、僕たちは肩を寄せ合って入った。大人二人なら互いに向き合って何とか入れる浴槽の中に、僕たちは無理やり身を寄せ合い、並んで浸かった。ちとせと一緒に入るといっても、お互い向き合って入るだけで手を握るほどの触れ合いも無いのに、この時、僕とありすは触れ合う半身を密着させていた。
「窮屈だね」
「なら、僕があっちに行って向き合った方が……」
「ううん、このままがいい。お兄ちゃんとこうしていたい……」
 ありすはそう言って、さらに僕の体に寄りかかり、何だか安らいだ表情を見せた。そのぶん、ありすの圧力によって僕の窮屈度は増してきた。でも、僕はありすを押しのけることは出来ず、その圧迫を受け入れるしかなかった。密着した肌からはありすの息遣いが伝わってきた。
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
 突然にありすは謝り始めた。
「この前、お兄ちゃんの部屋に勝手に入って……お兄ちゃんの大事なところを邪魔してしまって……初めてだったの。男の子のあんなところ……だから……」
 言葉に詰まりながらありすは顔を赤らめていた。その視線の先には湯船の中であの日と同じように欲情した僕の性器があったが、今さら隠そうも隠しようが無いので気付かないふりを決め込んだ。
「僕の方こそ、ありすに精液を掛けてしまって悪かったよ。変なところ見られてしまったし……」
「そんなの全然気にしてないよ。それより、私の方こそ変な子だって思ったでしょ? いきなり部屋に飛び込んできてお兄ちゃんに抱きついて。おまけにお兄ちゃんが……してるところ邪魔しちゃったから嫌われたかと思った」
「落雷で停電したからびっくりしたんだろ? 別に変じゃないさ。ありすのこと嫌ったりなんかしないよ」
「ほんと?」
 僕が肯くとありすは腰を上げ、僕の上に覆い被さった。
「お兄ちゃん……大好き」
 そしてゆっくりと僕に唇を触れ、体を重ね合わせた……

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2007 もえるおはなし all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。