もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第02話「貧乏少女の襲来」
 当然それは予想できる事態だったし、阻止されなければならないことだった。しかしながら、この日やって来た転校生・沢村ありす……海外に行ったきり帰って来ない父親の再婚相手の連れ子、要するに血の繋がらない妹の存在が僕の学校生活のパターンを狂わせてしまっていた。
 いや、ありす自身が何かしたわけではない。しかし、学期の始まりでもないこんな時期にいきなり転校生として現れた妹の存在というのはクラスの話題にならないわけがない。担任がああ言った以上、事情を聞かれれば素直に答えるのはやぶさかではないが、多くは興味本位に「血の繋がらない妹」だの「眼鏡っ子」だののキーワードで僕の反応をからかおうとするものだった。
 第一、僕は眼鏡っ子なんかに興味は無いし、「血の繋がらない妹」ってだけで妹に萌えられるならそれこそ願ったりであるけど、現実はそんなものじゃない。
 もっとも、ありす本人は転校初日だからか、八方美人を装うのに若干の萌えっ気を振り撒いているのだけど、このことが僕を取り巻く事態の悪化を招いてる気がするのは間違いではあるまい。この辺り、ありすの幼少からの児童劇団での芸歴は侮れない。

「ごちそうさま!」
 そう、その言葉で僕は日常の学園生活の現実を思い出したのである。もうすでに手遅れではあるけど。
 目の前にはロリっ気たっぷりの小学生……ではなく、こう見えても同じクラスの女子であるまりあが満足そうにニコ笑んでいた。そして彼女の前にはすでに空っぽになった僕の弁当箱が。
「いつもながら、ちーちゃんのお弁当って美味しいね」
 他人様の弁当を勝手に平らげておいて同意を求めるんじゃねぇっ! ちなみにちーちゃんというのは僕の双子の姉のちとせのことである。高校に入って給食が無くなってから毎日、僕の弁当はちとせが作ってくれている。でも、通算してその弁当の半分ぐらいは今日と同じように、まりあに食われてしまってるわけだが……
「だいたい、なんでおまえはオレの弁当ばっかり盗み食いするんだよ。他の女子に分けてもらえばいいじゃないか」
 ふつう、女の子が彼氏に弁当作って来ることはあっても、男子から弁当横取りしたりはしないだろ。
「だって、ちーちゃんの弁当、美味しいんだもん。それにあたしたち将来を誓った仲じゃない」
 誓うか、そんなもん。
「おまえが勝手にそう言ってるだけだろ」
 そう、幼い頃、まりあは一方的に僕のお嫁さんになってあげると言ってから、馴れ馴れしく僕に付きまとっているのである。
「そんなにちとせの弁当食いたいんなら、ちとせに金払って作ってもらえよ。オレの弁当タダ食いするなんざ、立派な犯罪行為だろ」
「フィアンセだから分け合って当然でしょ」
 結局、何を言っても最後にはそこに行きつくことになってる。分け合うというのはギブ・アンド・テイクだぞ。一方的にテイクだけしてるやつの言うセリフじゃないだろ……などという反論は数え切れないくらいした記憶があるが、効果があった試しは無い。
 そんなにフィアンセ、フィアンセって言うなら体で払わせたって文句は無いだろ……と思ったことも一度や二度ではないけど、そんなことしたら本当に一生付きまとわれてしまいそうだから怖くて実行に移せない。その道のクラスメイトに言わせれば、まりあは典型的なロリ萌えキャラでたまらないそうなんだけど、あいにく僕にはロリ萌え属性なんか無いので興味の対象外だし。
 フィアンセなんて言葉を僕に対する武器に使いたければ、女子高生らしい容姿と身なりと萌えを身に付けることだな。例えば、素顔のありすみたいに。いや、こいつもふだんは萌えなんか欠片も無いんだけど、美少女っぽいのは異論はあるまい。なんたって、今、人気のアイドル声優だからな。
 ……とか思いながら今日の昼食はどうしようかと考えあぐねていると、そこにありすがやってきた。
「お兄ちゃん、お弁当、もう食べたの?」
 同い年のクラスメイト、それも昨日までは赤の他人だった女の子にお兄ちゃん呼ばわりされるのは、何かとても落ち着かない気分で、それはそれで違和感大有りなんだけど、今はそんなことに構ってる場合じゃない。
「オレが食ったんじゃない。ここにいる貧乏人に食われてしまったんだ」
 僕はまりあを指差して言った。
「ええと……」
 ありすはまりあを見て何か思い出そうと頭を捻っていたが、転校初日からクラスメイトの名前と顔、全部覚えられるわけでもあるまい。
「近所に住んでる貧乏人のまりあだ。貧乏人だから苗字は無いと思う」
 弁当泥棒をまともに紹介してやる気も無いので、僕は適当に教え込もうとしたが、まりあはたちまち反駁した。
「苗字ぐらいまりあだってあるもん! 国分寺だよ。国分寺まりあだよ!」
 僕が本当に無いと考えてると思ったのか、まりあは必死になって自己主張する。
「国分寺さんね、よろしく」
 ありすは相変わらずまりあに対しても営業萌えを振りまいてる。ありすのことなんか眼中に無いって感じで懸命に僕に主張してたまりあだったが、その一言を聞いた途端、ぴくりと何かに反応した。
「あ、りんごタンだぁ」
 しまった……と僕は思った。こいつにはこの特技があったんだ。
 りんごタンこと青森林檎というのは『冒険少女隊ドキドキファンタ』で主人公ファンタ・アップルに魔法で変身する女の子のことである。ドジで貧乏臭くて萌えっ気の欠片も無い、変身後のファンタ・アップルとは大違いのキャラだから僕的にはあまり興味が無いのだけど、似た境遇に親近感を覚えているのか、まりあにはいたくお気に入りのキャラらしい。
 しかし、問題はそんなことではない。こいつの特技というのはいかなるアニメキャラであろうと声優ごとに声を聞き分けられるってことである。それは往年のベテラン声優からちょい役ゲスト出演の新人声優まで、ほぼ100%的中するという恐ろしい特技なのだ。そのまりあの耳が、ありすの声と青森林檎の声を同じと判断したってことは、ありすが人気アイドル声優・一条ありす本人だと見破ったってことである。
「りんごタン……そう、あなたはりんごタンよ!」
 まりあは確信を抱いたかのように言い放った。まさか、このままクラス中にありすの正体を明かしてしまうんじゃないだろうな。
 正体がバレてどうなるってことはわからないけど、本人が自己紹介でも触れてなかったし、わざわざ眼鏡で素顔を隠してるからには、積極的に知られたいってことではないのは確かだろう。いや、別に僕自身、ありす本人から口止めされてるわけでもないのだけど……
 見ればありす自身もどう反応したら良いのか、戸惑ってる様子だった。
「本物のりんごタンそっくりの声だから、あなたにはりんごタンのコスプレやらせてあげる!」
「へ?」
 僕とありすは意味不明なまりあの宣言に一瞬言葉を失い、顔を見合わせた。
「今度、夏のモエケットでコスプレ参加するんだ。あーちゃんも一緒に連れてってあげる!」
 さりげなく勝手にあーちゃんなんて呼び方決めてるし……
 モエケット(萌え萌えアニコミマーケット)というのはアニメやマンガの同人誌に限定した、毎年、春夏冬の三回を東名阪3都市持ち回りで開催されている日本でも指折りの同人誌即売会であり、出店参加とは別にコスプレ参加も募集している。そういえばまりあはそのロリ体型に目を付けられて、うちのアニメ研の連中にコスプレ要員としていつも借り出されている。
 まりあ曰く「タダで服を作ってくれて、ついでにごはんを奢ってくれる」だそうで、貧乏人のまりあには手軽な飯代稼ぎみたいなつもりなんだろうけど……それは少し違うと思うぞ。だいたいそんな服もらったって、外に着て出歩けないだろ。
 それはさておき、声でコスプレ決めてどうするんだ? いや、この発言でまりあがありすの正体には気付いて無さそうなことは確信したけど……そういえばこいつ、アニメキャラの声には異様に鋭いくせに、その声を出してる声優さんにはまったく興味を持ってなかったみたいだったな。きっと、林檎の声を一条ありすって声優が出してるってことも知らないのかも知れないな。
「コスプレするの? 私が?」
 あまりの唐突なことで理解しきれていないらしいありすは、首を傾げながらそうつぶやいた。いや、どうせありすにやらせるのなら、青森林檎よりも変身後のファンタ・アップルのコスプレを見てみたいぞ。でも、どうせ後になって事態を把握して冷静になったら、ありすだってそんなの断るだろうにきまってるけど。
 ともあれ、ありすの正体について当分の危機は去ったと思った僕は、まりあのせいで食いそびれた昼食を補完するため学食に向かって席を立った。その時、背後で怪しげな眼光が僕のことを見つめていたのには気付かなかった。

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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