もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第07話「強引な地球球体説」
「ちゃんと勉強しておいたのに、どうして?」
 夕食の席でちとせはそう言って首を傾げていた。一学期の期末試験も終わり、ぼちぼち結果が返ってきてる時分である。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
 今日は仕事もレッスンもないので一緒に夕食をとってるありすが訊ねた。
「地学のテストなんだけど、この前、敬ちゃんに教えてもらったとおりに答えたのに、それが不正解になってるのよ!」
 地学? そんなのちとせに教えたっけ?
「どういう問題なの?」
 ありすは興味深そうに質問を続ける。ちとせは問題用紙と答案用紙をありすに示しながら言った。
「授業のときに試験に出すから調べとけって言われたから、敬ちゃん得意そうだし、教えてもらったのよ。で、その時に教えてもらったとおりに書いたんだけど、その答えが間違いだって……」
 それを聞きながら問題と答案を見比べてたありすは、いきなりキツイ目で僕をにらみつけた。
「お兄ちゃん、これ酷いよ!」
 付き付けられた答案用紙を見た僕はようやく何のことか理解し、心当たりを思い出していた。

「敬ちゃん、理科、得意だったよね?」
「ちとせに成績で負けたことが無いくらいにはな」
 ちとせがそんな風に僕に声を掛けてくるのは、たいてい宿題を教えて欲しいとか、そんなときだ。普段から予習復習を欠かさないちとせは、文系科目に限っていえば学年でも上位の成績を上げている。しかし、理系の科目、とくに理科全般に関しては体質的に合わないのか成績も良くないようだ。
 対する僕は文系科目は全然ダメ。数学はそこそこ良い成績だけど、得意というまでには至らない。しかし、理科、とくに地学と物理に関しては毎回満点かそれに準じる成績を残しているので自身はある。
 そんなわけだから他の科目でちとせが僕に訊ねて来ることなんて有り得ないのだけど、理科に関しては例外だった。
「あのね。地学の先生が調べて置けって言ったんだけど……」
 ちとせの言った質問はつぎのようなものだった。地球が丸いと実証されてきた方法とその仕組みを説明しろと……
「そりゃ簡単だよ」
 僕は言った。
「ガガーリンが宇宙に行った時、地球を観察したら丸かった……それだけさ」
「仕組みは?」
 ちとせは訝しがるように僕を見つめた。
「目で見たら丸いってわかるんだから、仕組みも何も要らないだろ?」
「そういえばそうね。でも、そんなので良いのかなあ?」
 ちとせはなおも疑わしそうだった。
「そりゃ、もっとミクロの世界の話なら、その現象が確かに観測されたのかどうかって証明が必要だろうけど、地球が丸いかどうかなんてマクロな世界の話、人間の目で確認するのが一番の実証手段だよ」

 その時はてっきりいつもの宿題か何かで、授業中に発表させられるものとばかり思ってたから、ちとせというより、地学の先生の意図しない答えを出させて困らせてやろうかとほんの悪戯心に思ったんだけど……期末試験に出る問題だったなんて知らなかったぞ。
 試験に出る問題だとわかってたら僕だってちちせに悪い点数を取らせたいとは思わないから、『緯度による夏至の日の太陽の南中高度の違い』だとか『月蝕の際の地球の影』だとか、ちゃんと先生が意図したような答えを教えてたはずだ。

「お兄ちゃん! こんな答え、正解になるわけ無いよ!」
 ありすはまるで自分が騙されたかのように、僕に悪意があったといわんばかりに責め立てようとする。
「それはちがうぞ、ありす」
 結局、僕は開き直ってちとせと同じ方法でありすを言いくるめようと考えた。
「あらゆる科学において一番大事なことは人間がこの目でしっかりとその現象を確認することなんだ。カミオカンデでニュートリノの観測をしてるのもそのためだ。ニュートリノの存在を理論的に証明するだけで良いんなら、何もあんな巨費を投じた設備なんか要らない」
「地球が丸い証明だって同じことさ。過去にいろんな方法で検証されてきたけど、ガガーリンが宇宙から目視して初めて、地球が丸いことの実証が完成したと言えるんだ」
「だいたいその設問、人間が目視で確認したことを除くなんて前提条件どこにも無いんだから、不正解にする方が間違ってるんだ」
 ありすは言い返す理屈が見付からないのか黙っていた。こいつも理系に弱い女の子らしい。
「やっぱり不正解って変よね。明日、先生に抗議して来る!」
 ちとせは奮い立って言ったが、結果は保証しないぞ、僕は。
「何か根本的におかしいと思う……」
 ありすは釈然としない表情でつぶやいた。

 翌日、ちとせは言葉どおりに地学の先生に抗議に行ったらしい。まさか本気で抗議するとは僕も予想しなかったけど。いくら屁理屈述べたって普通はクレームが効くとは本当は僕だって思っちゃいない。
 しかし、恐るべきことにちとせはその抗議を認めさせ、テストの答案を正答だと認めさせてしまったのだ。

「おいおい、いったいどんな手段で抗議したんだよ?」
 僕は非常に気になったのでちとせに訊ねた。
「別に特別なことなんて何もしてないわよ」
 ちとせは質問の意味がわからないといった表情を返した。
「先生が児童買春やってる現場を押さえたとか、パソコンの中の画像から児ポ法違反の証拠を握って脅したとか?」
「そんなわけないでしょ! まさか、そんな無理をしないと通らないような、屁理屈だったんじゃないでしょうね」
 話を聞けば、授業時間を除いて一日中しつこく先生に付きまとってたらしい。
「この問題で、どうして人間が宇宙から地球を目視したことが解答として間違ってるのか、納得いくように説明してください!」
 ふだんは天然してて言われたことは何でも信じてしまうようなちとせだけど、いったんこうなったら自分が納得できるまで執拗に食い下がって離れない怖さがある。そのことは双子の弟である僕が一番よく知ってることなのだけど、ふだんのぽわぽわしたちとせの雰囲気からは想像がつかないのも確かだ。
 それにしても、文系コースのセンター試験対策程度の授業でこんな抗議を受けた先生もびっくりしただろうな。

 ちとせの頑固さを示すにはもっと適切だと思える例がある。
 ちとせは入浴時間を決めていて、毎日必ずその時間にきっちり入る。来客があったり外出していて帰宅が遅くなったときなんかは別だけど、それ以外で入浴時間を変えたりすることは無い。もちろん僕はその時間を避けて入浴してるわけだけど、年に何回かはちとせの入浴時間を忘れてその直前に入ってしまうことがある。
 ちとせが入ろうとしてる時間に僕が先に入ってると、普通なら入浴時間を延ばして後で文句をぶつぶつ言うところだろう。ところがちとせは僕が先に入ってようがどうであろうが、そんなことはお構いなしに時間になれば入ってくるのだ。もちろん、タオルで体を隠したりもせずにすっぽんぽんで。
 ま、僕らは双子で生まれた時から一緒だから、お互いに裸を見られたところで恥ずかしがったりするものでもないけど、ふつう年頃の女の子が同じくらい以上の男兄弟と一緒に風呂に入ったりはしないだろうに。
 もっとも、一緒に風呂に入ってるからといってそれは時間的空間的に一緒だというだけの話で、だからといってお互いに背中を流し合ったりするわけでもなく、あくまで不干渉でいるだけである。ちとせにとっては普段の入浴シーンの背景に僕の姿が有るか無いかだけの違い程度のことかも知れない。僕もこんなことに慣れてしまってるから、特にちとせの裸を意識したりはしないけど、さすがに中学生の思春期の頃は意識しなかったというとウソになる。
 今だって、いろんな事情で僕の性器が大きくなってるところにちとせが入ってきて、それをもろに見られてしまうのには抵抗があるんだけど、わざとらしく隠したところでかえって面白そうに眺められるだけなので、見られてることを意識しないようにしている。お返しにちとせののも見てやろうかと思ったことも一度や二度じゃないのだけど、そのあたりはしっかり毛の下に隠れていて、無理やり押し広げでもしない限り見えそうにはないからさすがに実行したことは無い。
 ちとせがそんなふうに定刻通りに入浴するのはありすが先に入浴してた場合でも変わらないみたいだけど、ま、女の子同士だからトラブルも無くうまくやってるようである。でも、もし新しく増えた家族が男だったりしたらちとせはどうしたんだろうかというのは少し気になるところではある。

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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