もえるおはなし
そこはかとなく書き綴る脳内ラノベ
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第01話「夏休みの始まり」
「やっぱし迎えを呼んだ方が良かったのかなぁ」
 亜梨子はそう言って天を仰いだ。そこにはギラギラと照り付ける真夏の太陽が雲ひとつ無い快晴の空で輝いていた。まだ幼さの残る彼女の年齢に似合わないませたサングラスを通して届くその光は、裸眼で見ることを思えばずいぶんと和らいだものだったが、それでも長時間見続けていれば目が潰れてしまいそうだった。
「もうくたくたで歩けへん」
 両肩に背負ったリュックには、それより大きな丸まった包みがくくりつけられていて、それに比べて小柄な彼女の体は今にも押し潰されそうな感じだった。全身から噴き出しシャツに滲んでる汗の量と、腰にくくりつけられたホルダーの空っぽのペットボトルは、彼女がもう長い間この炎天下を歩いてきたことを示していた。
「この辺のはずやけど、いったいいつまで歩けばええん?……」
 手にしたやけに簡単な手描きの地図は彼女の母親が手渡したものだった。母親は駅に着いたら先方に連絡して迎えを呼べと言ってたのだけど、彼女はそうはせずに地図を頼りに歩いてきたのだ。もとより歩くことなんか考えてないから適当にいい加減な地図だった可能性もある。
「せやけど、いったいどうゆうて迎えに来てもろたらええねん」
 うちの神経は繊細やからなぁ、と亜梨子は自分に言い訳した。
「昔の恋人やか愛人やかの娘が訪ねて来て、素直に歓迎してくれる家庭なんかあらへんやろ」
 そう、彼女の目的地は彼女の父親の家だった。

 シングルマザーの家庭で育った亜梨子は、母親のいい加減な性格もあって、父親というものの存在をとくに意識せずに育ってきた。ところが、夏休みの直前になって母親からいきなり長期休暇を父親の家で過ごすように言われたのだ。
 亜梨子の母は何の仕事をやっているのか知らないけど、しばしば外国に出掛けるとか言って留守にする。たいていは二、三日の話だし、いつもは学校もあるから亜梨子はひとりで留守番してるのだけど、今度は一ヶ月以上も空けるので、家に亜梨子だけを残していくのは心配らしい。そこで父親の家に行けってことなんだけど……
「うちにパパなんかいたなんて知らんかった」
 亜梨子はそう言って母親に毒づいた。もちろん、処女懐胎なんてあるわけないんだから生物学的に父親がいたのは確かだろう。でも、その父親は死んだにせよ生きてるにせよ、自分とは無縁の存在だと思っていた。現に今までそうだったのだから。
 もっとも、そんなことより楽しみにしていた林間学校でのキャンプや夏休み中の部活動に出れなくなることの方が問題だった。なぜなら父親の家は遥か遠くの東京にあるというのだから……

 そんなことだから彼女は事前に連絡するのを躊躇った。母親は話を通してあるというけれど、それが歓迎されるものなのか、単に厄介者を押し付けられたように思われてるのかわからない。当然、その父親には本当の妻とその子供がいて、ごく普通の家庭を築いてると考えた方がいい。自分の来訪はその家庭に傷をつけてしまう危険だってあるのだ。
 いきなり連絡を入れて迎えを呼ぶより、こっそり外から様子を伺って自分を受け入れてくれる余地があるのか確かめた方が良いかと思ったのが亜梨子なりの処世術だった。

「ネットで地図を検索して印刷してくるんやった……」
 鉄道の最寄り駅からせいぜい三十分ぐらいの場所だと思ったから、そのいい加減な地図でも間に合うだろうと思ってたのだけど、もう二時間ぐらいは歩いてる。最初からこんなに距離があると知ってたら別の手段を考えてたものなのに。
 部活で鍛えてるとはいえ、夏の日差しは自分たちにとって大敵だ。
「うち、このまま倒れたら日干しになってしまうんかなぁ」
 砂漠の真ん中でもないから、倒れても日干しになる前に誰かが見つけてくれるだろうけど、とにかく体力的に限界が近いのは確かなようだ。重い荷物を背負ったままの話だけど……

 あまり目の前の現実を直視していると余計に疲れるだけじゃないかと考えた亜梨子は、何か別のことを思い浮かべようとした。
「そうゆーたら、新幹線で京都から隣の席に乗ってきた女の子、巫女さんの格好をしてたけど何やったんやろ?」
 彼女は亜梨子と同じくらいの歳の少女だった。京都といえば神社仏閣の宝庫だから巫女さんが多くいても不思議は無い。しかし、本職の巫女さんだって電車に乗って遠出するときにあんな格好してるとは思えない。夏休みだからイベントのコスプレって線もあるけど、それだって新幹線の中でそんな格好で移動したりはしないと思う。まあ、そういう格好で出歩くのが趣味の女の子なのかも知れないけど……
「せやけど、なんか不思議な感じがする子やったなぁ」
 そんなことを思いながら歩いたが、あまり効果は無かったように疲れは蓄積した。

「さっきからえらい広い公園みたいなとこ通ってるけど、どこかに休めるところあらへんのかな」
 歩道の横の頑丈な鉄格子のフェンスの向こうには、木々の生えたただっぴろい空間が広がっていた。しかし、公園にしてはいっこうに入口らしきものが見当たらなかった。
「まさか、これが大きなお屋敷ってわけやあらへんね」
 いずれにせよ、自分には無縁のものだろうと思った。しばらく歩くと正門に近付いたのか、立木が薄れて遠くに大きな建物が見えてきた。
「うちもどうせやったら、こんな大きな家のお嬢様に生まれてきたかったわ」
 この屋敷の広大な敷地を通り過ぎるのにまだしばらく掛かると考えると、どっと疲れに襲われた。やがて正門らしきゲートのある場所に差し掛かった。ふと見上げた目に表札が目に入った。
「う、うそ……」
 そこに書かれていた苗字は母から渡された地図に書いてあるのと同じだったのだ。確かにこの大雑把な地図の場所と考えても間違いでは無いような気がする。
「そんなの聞いて無いよ……」
 自分にとってあまりに場違いな場所であるような気がして亜梨子は戸惑った。
「そうや。こないに広い家やったら住み込みの使用人かて何人もおるやろ。うちのパパはこの屋敷で働いてるだけなんや……」
 そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせようとした亜梨子だったが、結局どうしようかと10分ばかりその場で悩みこんだ挙句、ようやくインターホンのボタンを押した。
「う……うち、綾瀬亜梨子いいます。うちのパパに会いにきたんですけど……」
 緊張のあまり、しどろもどろになりがちにそれだけ話した。応対に出た執事さんらしき男声の声はしばらく待つようにとのことだったが、しばらくして慌てたように声が帰って来た。
「すぐに迎えに参りますからお待ちください、お嬢様」
「お……お嬢様?」
 確かに男の声はそう聞こえた。それが間違いでないことはやがて黒い乗用車でやってきた執事の態度が証明した。
「お待たせしまして申し訳ありません。ご案内いたしますからお車へどうぞ、亜梨子お嬢様」
 門から屋敷の建物までは歩いて行けない距離では無かったが、そんな距離でもわざわざ車で送り迎いというところが大きなお屋敷の家らしくはあったが、そんな家に自分がお嬢様として迎え入れられようとしてるのは、亜梨子にとってこの時はまだ半信半疑で、驚きの外なかった。

 亜梨子の中一の夏休みはこうして始まった。

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朱月の狩姫~序章~
 いい加減、ぼちぼちと書き始めることにします。
 今回の連載はタイトルに「序章」とあるように、本編の前のプロローグ編的なものですが、あるひと夏の事件を中心に、作品の世界観の説明とかも含めて書きすすめたいと思います。
 気長にお付き合いくださいませ。

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新作告知
 トップページに目次の枠だけ用意しましたが、ぼちぼちと新作を書いていきたいと思います。
 前作は最初に下書きが終わりまであったから、割と短期間で連載できましたが、今回はまだ構想の段階で形になるものがありませんので、どれだけ遅筆になるものやら……

 内容は少し変わった吸血鬼ファンタジーです。特別な設定がかなりあるので(それでいて本編にはあまり関係が無かったりする)、初期のうちに基本的な世界設定の説明ぐらいは載せたいと思います。

 まだ何も文章にして無いので、実際の連載開始は先の話になります。

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